八章 高貴な夫婦の来店
これはある日のライゼン通り。ミラは何時ものように店番をしていた。
「いらっしゃいませ」
そこに若い夫婦らしきお客が来店してくる。
「ここのパン屋さん美味しいって評判なんだそうです。フィアナさんお昼に食べましょう」
「はい。本当にいろんなパンが一杯でどれにしようか迷っちゃうな」
幼さの残る旦那さんが年上の奥さんに話しかけると彼女がパンの山を見やり考え込む。
「お客さん初めての顔ね。この街には観光かなんかで?」
「え? は、はい。そうです」
「職人の街と言われているコゥディルには一度来てみたいと思っておりまして、本当に良い職人さんばかりですね。貴女もそうなのでしょうか」
ミラはにこりと笑うと話しかけた。それに奥さんが驚き旦那さんは愛想のよい微笑みを浮かべて答える。
「あら、腕のいい職人だなんて私はただの売り子ですよ。本当に腕がいいのは私の両親でパンに使う材料選びから仕込みや焼き上げまで全部やっているんですよ」
「そうでしたか。ご両親にもお会いして詳しくお話を聞いてみたいですね」
彼女の言葉に旦那さんが笑顔で頷き会ってみたいという。
「家の両親で良ければ奥にいますよ。お父さん、お母さん。お客様が会いたいって」
「何だって?」
「まぁまぁ。嬉しい事を言って下さるご夫婦だ事」
大声で奥にいる両親を呼ぶとマックスが慌てて出てきてその後をゆっくりとした足取りでミランダが続く。
「ぼく達はコゥディル王国の職人さん達に凄く興味が御座いまして。パン作りについて色々とお話をお伺いできたらと思いまして」
「よろしくお願い致します」
旦那さんが笑顔で話す横で奥さんが頭を下げてお願いする。
「そうですね。パン作りには良い材料を選ぶことが重要で。例えばお水にしても汚染された水は使えません。ですからうちは山間の水が綺麗な村からお水を買っていて……」
「ふむふむ」
マックスの話を真剣に聞く旦那さん。その横にいる奥さんはよく分かっていないのかぼんやりしていた。
「ふふ。お父さんパンの話になったら長くなるから、奥さん私とお話でもして待っていませんか」
「え? あ、はい」
「私はミラ。貴女は?」
「フィアナです。あの、ミラさんはずっとお店のお手伝いを?」
「初めて手伝ったのは五歳の時ね。それからずっと。それより朝日ヶ丘テラスにはもう行ったかしら」
「いいえ。まだ行ってないです」
「あらそう。あそこは恋人の聖地って呼ばれていてね。是非旦那さんと行ってくると良いわよ。コーヒーが美味しいカフェやチーズケーキの専門店に夜はバーをやっていたりするお店とか大人が楽しむスポットが満載だから」
「有難う御座います。後で行ってみますね」
その様子にミラは話しかける。驚いた様子でたじろぎながらも奥さんが答えてくれて二人で会話を楽しんだ。
「と、言う感じです」
「成る程。よく分かりました。有難う御座います。……フィアナさん待たせてしまって申し訳ございません」
話を終えたマックスにお礼を言うと待たせている妻へと旦那さんが声をかける。
「いいえ。私もこちらのミラさんとお話を楽しんでいましたので。それでアレンさんお話を聞いてどうでしたか?」
「凄く勉強になりました。マックスさん、ミランダさん、ミラさんも有難う御座います」
奥さんが答えると再度お礼を述べた旦那さんにミラ達も笑顔で答えた。
「そうだわ、このパンをぜひ食べてみて。あとこのジャムをつけて食べるといいわよ。それからせっかく観光できたなら凄く雰囲気の言い雑貨屋があるのよ。そこでお土産でも買って帰ると良いわ」
「有難う御座います」
パンの山からおすすめをいくつか抜き取りジャムと一緒に手渡すミラへと旦那さんが微笑みお礼を述べた。
「それじゃあ観光楽しんできてね」
「はい。有難う御座いました」
見送る彼女の言葉に旦那さんが答えると奥さんと一緒に店を後にする。
「あ~。理想の夫婦って感じで素敵だったな」
「ミラ結婚なんてお父さん許さないからな!」
「はいはい。馬鹿言ってないでお仕事しなさい」
瞳を輝かせて話すミラへとマックスが慌てて声をかけミランダが呆れて溜息を吐き出す。
「それにしても凄く高貴な雰囲気のご夫婦だったわね」
「そうだな。パン作りに興味があるなんて中々見る目がある旦那さんだったよ」
「奥さんは美人だしお優しい雰囲気だったしきっとどこかの国のお貴族様よ」
彼女の言葉に父親と母親も納得した顔で話す。
「また、会えると良いな」
こうして高貴な夫婦が出て行ったお店でミラは先ほどの出来事を思い返して微笑んだ。
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友情出演の回でした。追憶の誓い~時渡のペンダント~の第二部アレンルートの新婚旅行編のあの話です。これで繋がったと思います。
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