七章 夏祭りは大忙し
今日は夏祭り。この日ばかりはライゼン通りもお祭り騒ぎでいつも以上に人が押し寄せてきていた。
「いらっしゃいませ。順番にお願いします」
「ミラこのパンを追加で置いてくれ」
店の前に構えた屋台でお客の波に大きな声をかけるミラへとマックスが次々とパンを持ってきながら頼む。
「はい、分かったわよ」
「ミラお客様がお待ちだよ。レジをお願いね」
「今手が離せないの。お母さん代わりにやってよ」
パンが入った籠を受け取り急いで並べていると今度はミランダが話しかけて来る。それに答えながらも手を動かす。
「相変わらず貴女のお店は人気ね」
「あ、ベティー。いらっしゃい」
大忙しに動き回っているとベティーの声が聞こえてきて笑顔でそちらを見やる。
「おばあちゃんから頼まれてレーズンジャムを買いに来たのよ。今年も大変そうだから手伝ってあげたいけれどうちも大忙しでね。ごめんなさいね」
「いいのよ。雑貨屋も今日は人で一杯でしょう。気持ちだけで十分よ」
彼女の言葉にミラは笑顔で答えた。
「ふふっ。お仕事頑張ってね」
「えぇ。有り難う」
ジャムを購入するとベティーが雑貨屋へと戻っていく。その後ろ姿へと彼女は笑顔で声をかけ見送った。
「やぁ、ミラ。凄い忙しそうだね。ははっ。子供の頃は良く手伝わされたっけ。……なんだか懐かしいな」
「あらマルクス。お城のお仕事放棄してこんなところに来ていいの?」
マルクスの声が聞こえてきてミラはそちらへと顔を向けながら尋ねる。
「今日は朝まで徹夜でお仕事だから夜食を買ってくるようにって隊長に言われてね。それでおつかい」
「そうだったの。それじゃあ適当に選んで籠に入れておいてあげるわ」
「有り難う。あ、アップルパイも入れてくれると嬉しいな」
話を聞いたミラは籠を取り出し適当にパンを選んであげた。その様子を見ながら彼が話す。
「本当にマルクスはうちのアップルパイが好きね」
「うん。歯で噛みしめた時のサクサク感と程よいりんごの甘み。そして隠し味の生クリーム……今までいろんなものを食べて来たけどやっぱり僕にとっては忘れられない味だからね」
まるで味を思い出し噛みしめるかのように瞳を閉ざし世界に入るマルクスへと彼女はくすりと笑う。
「はい。ちゃんとアップルパイも入れておいてあげたわよ。お会計」
「有り難う。それじゃあお仕事頑張ってね」
籠を受け取りお金を渡すと彼は人混みの中へと紛れて見えなくなる。
「ふぅ……大忙しだわ」
「あら、大変そうね」
額に滲んだ汗を拭っていると誰かに声をかけられそちらを見やった。
「ローズ様。いらっしゃいませ」
「パンが無くなってしまう前に買っておこうと思ってね。ここからここまで頂けるかしら」
そこに立っているローズへと笑顔を向けると彼女がそう言ってテーブルに並べられているパンの山を指さし頼む。
「畏まりました」
「これでよし。それじゃあわたしは帰るわね」
「有難う御座いました」
パンを買うとさっさとお店を後にするローズを見送っていると遠目でも分かる金の髪がこちらへと近づいてきている事に気付く。
「お嬢さん。ローズ様がこちらにいらしていませんか?」
「ローズ様ならついさっきパンを買って帰って行かれましたけど。それよりもお嬢さんなんて恥ずかしいからミラって呼んで頂戴」
慌てた様子で駆け込んできたレイヴィンへとミラは話す。
「それはすまない。それでミラ。ローズ様はどちらに行かれたか分かるか?」
「このお店からだと右の方に……多分雑貨屋の方だわ」
「雑貨屋か分かった。協力感謝する」
彼女の言葉が終わらないうちに彼が駆けだす。
「何だか忙しない騎士様だ事。でもローズ様を探しているってどうしてかしら。あ、もしかして王女様が呼んでいるとか?」
独りで仮説を唱えながらお店の仕事へと戻る。こうして大忙しの一日は過ぎて行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます