二章 試食会
ベティーがお店に来てから三日経ったある日の事。
「それでは、試食会開催しま~す」
「もう、恥ずかしいから止めてちょうだい」
ベティーの家で盛大に開催されることとなった試食会。彼女のテンションについていけないミラは恥ずかしそうに呟く。
「あら、せっかくやるなら楽しい雰囲気の方が良いじゃないの」
「でも私達二人だけしかいないのよ。盛大にやる意味ないじゃない」
「細かいことは気にしない。さあ、食べるわよ」
彼女の言葉なんて気にしていない様子でベティーがテーブルの上のパンを手に取る。
「それじゃあまずはこの黄色いジャムから……はむ」
「どう?」
パンの上へと黄色いジャムをぬりつけた彼女が一口食べる様子を見ながらミラは尋ねた。
「う~ん。美味しいわ。これもしかしてレモンとカルロネの花の蜜を合わせたのかしら。ほんのり甘酸っぱい感じが良いと思うわ」
「カルロネの優しい甘さをうまく引き出せているようで良かったわ」
顔をほころばせるベティーへと彼女は安堵した様子で微笑む。
「じゃあ次はこの赤い色のを……はむ、はむ」
「どうかしら?」
次のジャムをぬって食べる彼女へとミラは再び問いかける。
「美味しい~。甘酸っぱいラズベリーとほのかに香るりんごの甘みが良い感じよ」
「良かった」
こうして次々とジャムをぬっては食べるを繰り返す。気が付くと持ってきたパンはすべてなくなっておりジャムも半分減っていた。
「あ~。幸せ。美味しかったわ。ごちそうさま」
「それで、どのジャムが一番良かったかしら?」
お腹も心も満たされて幸せいっぱいの様子のベティーへと彼女は尋ねる。
「う~ん。どれもとても美味しかったわ。ミラ腕をあげたわね。これなら文句なしにお店に出せるはずよ」
「そう、良かったわ。ベティーがそう言うなら安心してお店に出せるわね」
彼女の言葉にミラは安堵して微笑む。
「さて、と。試食会はこれで終わりだけれど、せっかくだからお茶会しましょう」
「そうね。色々とおしゃべりしましょうか」
彼女の提案にミラも同意すると机の上を片付け始める。
「私、お茶入れて来るわね」
「それじゃあ私は一度家に戻って美味しいパイを持ってくるわ」
ベティーが言うと彼女もそう言って一度別れる。
焼き立てのパイを持て再び彼女の家へとやって来ると、テーブルの上には紅茶の入ったカップが二つ並べられていた。
「お待たせ。パイを持ってきたわよ」
「有り難う。それじゃあ早速」
「「頂きま~す」」
二人は同時に声をあげるとパイを切り分け小皿に盛る。
「そうだわ、ミラこの話聞いた?」
「いきなり何の事」
紅茶を飲みパイを一口食べたところでベティーが唐突に口を開く。いきなりの会話にミラは不思議そうに首を傾げた。
「最近王女様が城を抜け出して王宮は大騒ぎなんだって」
「まぁ、王女様が? でもどうしてお城を抜け出すのかしら」
彼女の話に驚いて目を丸めるミラは不思議そうな顔をする。
「何か目的があるのか、それとも本気で家出する気なのか、兎に角今お城は王女様脱走事件で大騒ぎなのよ」
「お忍びで街に遊びに来ているのかもしれないわね」
ベティーの言葉に彼女は仮説を唱えた。
「そうかもしれない。ねえ、王女様がもし本当にお忍びで街に来ているのならうちの雑貨屋に来てくれたらいいと思わない」
「そうね。ついでにうちのパン屋にも来てもらえたら嬉しいわね」
二人はそうなると良いのにと思いながら話し合う。
もしもの話が現実になるのにそう時間はかからないのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます