一章 雑貨屋の娘ベティー

 今日も穏やかな日差しが入るライゼン通りに一人の娘がご機嫌に鼻歌を唄いながらパン屋の扉を開ける。


「こんにちは。ミラいるかしら?」


「あ、ベティー。いらっしゃい」


明るい声で入って来た少女へとミラが嬉しそうな満面の笑顔で出迎えた。


「今日も繁盛しているようで結構結構」


「そういうベティーの方はお店を抜け出して大丈夫なの?」


何度も頷きながら話すベティーへと彼女は尋ねる。


「今はおばあちゃんが店番をしているから大丈夫よ。それに私、パン屋におつかいを頼まれてきたから。だから平気」


「あらそう? それならいいのだけれど」


彼女の言葉にミラも納得しながら頷く。


「ねぇ、それより。新しい髪飾りが入荷したのよ。それでこれ貴女と私でお揃いで如何かと思って」


「まぁ、可愛いわね。色違いでいい感じじゃないの」


ベティーが言うと可愛らしい花柄の髪飾りを見せながら話す。それに彼女も笑顔ではしゃぐ。


「ね、絶対ミラならそう言うと思っていたの。だからプレゼントしようと思ってね」


「有り難う。そうだ、私もお礼と言っては何だけれどこれ貰って行って」


髪飾りを受け取りながらミラがそう言ってバスケットを差し出す。


「これは?」


「私が作った試作品。もうすぐ春祭りでしょ。だからそれに向けて色々と新作のジャムを作っていた所なの。ねえ、これ貰ってくれるかしら」


不思議そうにするベティーへと彼女は説明した。


「そう言う事なら貰ってあげる」


「ついでに食べた感想とかも貰えると有り難いわ」


差し出されたバスケットを受け取る彼女へとミラがお願いといいたげに話す。


「じゃあまた今度試食会でもしましょうか」


「あら、いいわね!」


ベティーの言葉に彼女も同意して頷く。


「ミラ、お友達と話をするのもいいけれど、ちゃんとお店を手伝ってちょうだいな」


「まぁ、まぁ。今はお客の流れも少ない時間帯だし少しくらいは良いじゃないか」


そこに水を差すようにミランダが口を挟んでくると、直ぐにマックスがやんわりとした口調で諫める。


「もう、貴方はミラに甘すぎるのよ。そんなんだからつけあがるのよ」


「お前こそミラに厳しすぎる。もう少し優しくしてあげたらいいじゃないか」


「もう、貴方ってば!」


「はははっ」


二人の会話を見ながらベティーがミラへと顔を寄せて口を開く。


「ねぇ、貴女のお父さんとお母さんって本当に仲が良いわよね」


「仲が良すぎてこっちがたまに恥ずかしくなるくらいね」


囁きかけられた言葉に彼女は言うと小さく溜息を吐き出した。


「それじゃあ、私はそろそろ買い物をして帰らないとね。あんまり長い事お店を空けているとおばあちゃんに叱られるから」


「それで、今日は何を買いに来たのかしら?」


彼女の言葉にミラは尋ねる。


「いつものブレッドを二本とクリームパンとスコーンを五つ貰っていくわ」


「はい。毎度有り難う御座います」


ベティーの言葉に笑顔で言うと注文された品を籠へと詰めて渡す。


「ミラ、お仕事頑張ってね」


「ベティーもね。雑貨屋の仕事は午後からが一番忙しくなるでしょう」


「まぁね。私も頑張るわ」


「またね!」


軽くやり取りをして見送るとミラはお店番へと戻っていった。

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