第30話 記憶の断片

夜が明け、ニューヨークの街は再び活気を取り戻していた。リチャードは街をさまよい続け、自分の死因に関する手がかりを探していた。彼の意識は次第に断片的な記憶に引き込まれていった。


リチャードの目の前に、あるビルの一室が現れた。そこはかつて彼が調査のために頻繁に訪れていた場所だった。彼はそのビルのエントランスに足を踏み入れ、エレベーターで上階へと向かった。


エレベーターのドアが開くと、彼の目の前に広がったのは、かつてのオフィスの一角だった。デスクには書類が山積みになっており、その上にはリチャードが調査していた事件の資料が広がっていた。


リチャードはデスクに近づき、資料を手に取ろうとした。しかし、彼の手はその資料を掴むことができず、ただ空を切るだけだった。彼は悔しさと無力感に襲われたが、その瞬間、彼の記憶が鮮明に蘇り始めた。


「インフィニティ・コーポレーション…」リチャードはその名前を呟きながら、資料に記されていた内容を思い出した。彼はその企業が重大な不正行為を行っていることを知り、その証拠を掴むために調査を続けていたのだ。


その時、背後から声が聞こえた。「リチャード、ここで何をしているんだ?」


リチャードは振り返り、目の前に立っていた人物を見つめた。それは彼の旧友であり、情報屋のトム・ジョンソンだった。


「トム…俺は…」リチャードは自分の状況を説明しようとしたが、言葉が出なかった。トムはリチャードの姿が見えていないようだった。


トムは資料を手に取り、「リチャードがここで調べていたことは分かっている。でも、彼は一体何を見つけたんだ?」と独り言を呟いた。


リチャードはトムの言葉を聞きながら、自分が何を見つけたのかを思い出そうとした。彼の記憶の中で、ある瞬間が鮮明に蘇った。それは、リチャードが重要な証拠を手に入れた瞬間だった。


その証拠は、インフィニティ・コーポレーションが行っていた環境データの改ざんに関するものであり、企業の不正を暴くための鍵となるものだった。しかし、その証拠が原因でリチャードは命を狙われ、最終的に命を落とすことになったのだ。


リチャードはその瞬間を思い出し、トムに伝えようとした。「トム、その証拠を…」しかし、声は届かず、トムは資料を持ってオフィスを後にした。


リチャードはトムの後を追いながら、自分の死因を解明するための手がかりを探し続けた。彼の記憶の中で、重要な断片が次第に繋がっていく。


夜が更ける中、リチャードは再び街をさまよいながら、自分の死因に関する記憶を掘り起こそうとした。彼は生前の友人や協力者に会い、自分が何を知っていたのか、そして何を見たのかを思い出すための手がかりを求めた。


「俺は必ず真実を暴く…」リチャードは固く誓った。幽霊として存在する今、自分の過去と向き合い、全ての真実を明らかにするための旅が続くのだ。


次の日の朝、リチャードは再びエミリーの元を訪れた。彼女はリチャードが最後に調査していた事件について調べている最中だった。リチャードはエミリーが新たな手がかりを見つけることを期待し、彼女の傍に立ち続けた。


エミリーはデスクに広がる資料を見つめながら、「リチャード、あなたが追っていた真実を必ず明らかにするわ」と決意を新たにした。その言葉にリチャードは力を得た。


「エミリー、俺はここにいる。君の側で、君と共に戦う」とリチャードは心の中で誓った。


リチャードの旅は続く。彼の死因を解明し、真実を暴くための戦いはまだ始まったばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る