第23話 記憶の断片

ジュリアはジョンの記憶に再び入り込む決意を固めた。ニューヨークの喧騒が遠くに感じられる静かな夜、彼女はジョンの病院のベッドの隣に座り、深い呼吸をして集中した。手を握り、彼の記憶の中へと意識を飛ばした。


最初に現れたのは、ジョンの幼少期のさらなる断片だった。彼が父親とキャッチボールをしている姿、母親が手作りのパイを焼いている光景。温かく平和な家庭の記憶が広がる。しかし、その裏には常に何かが隠されているような不穏な影が感じられた。


ジュリアはその影を追い続けた。次に見えたのは、ジョンの大学時代の記憶だった。彼は友人たちと過ごす楽しい時間を思い出していた。夜遅くまで語り合い、未来への夢を語り合う。彼の傍にはいつもリンダ・ブラウンがいた。二人の関係は深く、強い絆で結ばれているように見えた。


しかし、ある日、ジョンは大学の図書館で偶然にもインフィニティ・コーポレーションに関する秘密の書類を発見する。その書類には、企業が環境データを改ざんし、重大な環境破壊を隠蔽している証拠が記されていた。ジョンは驚きと恐怖を感じ、その証拠を持ち帰ることを決意する。


その瞬間、記憶の断片は激しく揺れ動き、ジュリアはジョンの恐怖と混乱を強く感じ取った。彼が手に入れた情報は、企業の不正を暴く鍵であり、命を狙われるきっかけとなったのだ。


次に現れたのは、ジョンがリンダにこの秘密を打ち明ける場面だった。リンダは最初は驚き、恐怖を感じていたが、次第にジョンを支える決意を固める。「私たち、これを公表しなきゃ。でも、慎重にね」とリンダはジョンに言った。


ジュリアはこの記憶を見ながら、リンダがジョンの人生において重要な存在であることを再確認した。しかし、彼女はリンダがこの後に何をしたのかを知る必要があった。リンダはジョンを守るために何か行動を起こしたのだろうか、それとも…


次の断片では、ジョンがインフィニティ・コーポレーションの不正を暴露する準備をしている姿が見えた。彼はリンダと共に計画を立て、証拠を集め、メディアに公表する手段を模索していた。しかし、その計画は何者かに察知され、二人は危険な状況に追い込まれる。


ジョンの記憶はここで再び激しく揺れ動き、彼が何者かに襲われる瞬間が現れた。車の中で激しい追跡を受け、最終的に事故に巻き込まれる。その瞬間、ジョンの意識は途切れ、全てが暗闇に包まれた。


ジュリアはその瞬間に現実に引き戻された。彼女の額には汗がにじみ、心臓が激しく鼓動していた。「ジョン、何があったの…?」ジュリアは呟きながら、彼の手を握りしめた。


エミリーが部屋に入ってきた。「ジュリアさん、何か分かったのですか?」


「ええ、少しずつですが、ジョンが何を知っていたのか、そしてなぜ記憶を失ったのかが見えてきました。彼はインフィニティ・コーポレーションの不正を暴くための重要な証拠を持っていた。そして、そのために命を狙われたのです」


エミリーは驚きと恐怖の表情を浮かべた。「じゃあ、兄はその企業のせいで…」


「そうです。でも、まだ全てが明らかになったわけではありません。ジョンの記憶にはまだ多くの秘密が隠されています。そして、その中にはあなたの兄を守るための手がかりもあるはずです」


ジュリアは決意を新たにし、ジョンの記憶をさらに深く探ることを誓った。彼女の心には、ジョンを助けるための強い使命感が宿っていた。


その夜、ジュリアは再びジョンの記憶の迷宮に足を踏み入れる準備を整えた。彼女の前には、まだ多くの謎が広がっていた。しかし、彼女は決して諦めることなく、ジョンの記憶の全てを解き明かす覚悟を持っていた。


「待ってて、ジョン。必ずあなたを救い出すから」


ジュリアはその言葉を胸に、再び記憶の迷宮へと足を踏み出した。彼女の前には、新たな断片が待ち受けていた。

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