時々シッポ⑫ 〜犬の時間、ヒトの時間

 犬はヒトの4倍早く歳をとると言われています。(諸説あり)


 最初の1年で大人になるので20歳、そこから4歳ずつ歳をとるので、人間に換算すると3歳の犬は28歳、5歳だと36歳、10歳では56歳に相当します。15歳は76歳ですね。


 大型犬より、小型犬の方が寿命が長いので、もう少しゆっくり歳をとることになるでしょう。


 つまり、犬達はヒトの約4倍の速さで流れる時間の中を生きているのです。


 私達が2時間、出かける間の留守番は、犬達にとっては8時間ぶりの再会です。帰宅した時に大喜びで迎えてくれるわけです。

 まる1日、もし会えなかったら、4日ぶりですよ〜。心の中ですまぬ、とつぶやいてしまいますね。


 犬達の寿命も伸びました。

 これは、食事の栄養、予防医療や治療、衛生環境、充分な運動、室内飼育など、犬達をとりまく様々なことの改善によるものでしょう。


 それでも、犬達と一緒に暮らせる時間はおよそ15年くらい、20歳まで御長寿のワンコさんは、なかなかいません。


 犬達はあっという間に歳をとってしまいます。

 もっとゆっくりゆっくり生きて欲しい、と思います。

 ずっと一緒にいられたらいいのに、そう思います。


 過去を振り返って悔やむことも、未来を心配して思い悩むこともなく、現在いまだけを生きている犬達。

 身体全体で、嬉しい! 楽しい! 好き! をいつだって素直に表現する彼等かれら


 とてもうらやましく思えるときがあります。


 犬と暮らすということは、

 どれだけ自分の時間とお金を犬のために使えるのか、ということです。


 獣医療は進んできたとはいえ、ヒトの医療よりも限られたことしかできない場合があります。

 何をどこまで……飼い主として選択しなければならないとき。


 きっと、そのときのどんな選択にも正しい答なんてないんです。何が正しいか、誰にもわからない。


 何を選んだとしても

「あのとき、こうすれば良かった」「もっとこうしてあげたかった」あるいは、「ああしなければ良かった」

 後になって、そう思うことでしょう。


 でも、必ず選んで決められます。いちばん良いと思うことを。

 そのコの飼い主だから。飼い主にしかできないことです。


 ……病気の犬を見ているのは辛いです。


 元気に走り回って欲しい。

 シッポをぶんぶん振って欲しい。

 喜んだ顔を見せて欲しい。


 たとえ、願いはかなわなくても……。


 犬の前では、朗らかで明るく、機嫌良くしていたいと思います。

 彼らはいつでも精一杯、今を生きているから。


「大丈夫。大好きだよ」

 歳をとった君だって、愛おしい気持ちに変わりはなく、いいえ、一緒に重ねた時間が、より大切なものへと変わっていくのです。


 預かった生命を神様にまたお返しすること。


 それが、飼い主として最後にできる最大のこと、いちばん大切なことだと思っています。

 そして、最後まで見届けて、見送ることができるのは、幸せなことなのです。







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