時々シッポ⑤ 〜仔犬は悪魔
ナポが我家に来たその日の夜は、リビングに布団を敷いて、そばで一緒に寝ました。心配した夜泣きをすることもなかったです。
翌日、私は出勤しなければなりません。ナポはひとりで留守番です。
どうしたらいいんだろう……?
まだトイレも教えていないし、何かあったら困ると思い、サークルに入れ、ペットシートを敷き、水入れを置いて扉を閉めました。
帰宅すると、シートはぐちゃぐちゃ。水入れはひっくり返って、空っぽです。あとでお隣さんから聞いた話ですが、ずっとキャンキャン鳴く声がしていたらしいです(うるさくして、スミマセン……汗)。
次の日は、サークルに押し込めるのはやめて、テーブルその他でバリケードを作り、床にペットシートを敷き詰めました。帰ると、囲いのわずかな隙間を突破して、部屋の中にいました(泣)。
結局、留守中、キッチンだけは入れないようにしました。
帰宅して部屋のドアを開けるとき、ナポが無事かどうか、ドキドキする毎日……。
ある日、帰ると床一面に、雪!? が積もっておりました。
(何!? これ???)
ペットシートをビリビリに細かく引き裂いて、部屋中に撒き散らかしていたのです。
シートの中には水分を吸収するための高分子吸収ポリマーが入っています。透明の丸い小さな粒々ですが、これがクセモノなのです。ベトベトしていて、掃除機で吸い込むことはできませんし、雑巾で拭きとるのにも苦労します。
私の帰りを待ち構えていたように、ギャンギャン言いながら、まとわりついたり、飛びついたり、離れようとしないナポ。
「遊んで、遊んで! かまって、かまって! ゴハン、ゴハン!」
掃除しながら、心が折れかけました。
この頃、主人は単身赴任中で、平日はワンオペ育犬状態。仕事から帰ると、まず最初にやることは、ナポの世話と荒れた部屋の片付けです。育児ノイローゼならぬ、育犬ノイローゼになりそうでした(笑)。
今なら、わかります。
親兄弟と庭を自由に駆けまわって暮らしていたのに、よく知らない場所でいきなり長い時間をひとりきりにされて、不安で退屈で仕方なかったのでしょう。
そもそも仔犬に長時間の留守番は無理なのです。
最初の一年間でほぼ成犬になるワンコにとって、仔犬時代はいろいろな経験を吸収するための大切な時期です。親兄弟と暮らす中で犬社会のルールを教わり、そのあとは、人間社会で暮らすことを学ばなければならないのです。
そのどちらも、ナポにとっては不充分な結果となり、飼い主として知識不足で申し訳なかったと思っております。
仔犬は悪魔です。いろいろなことをやらかしてくれます。
まず、家は傷むし、汚れます。ラグは何度も買い換えました(トイレの失敗と仔犬はよく吐くのです)。あらゆる家具の角はかじられて傷だらけ。コード類は噛みちぎられそうになり、壁紙は汚れます。床は爪で傷がつき、室内は毛だらけになります。
いちばんショックだったのは、図書館で借りていた本を3冊、バラバラにされたこと。これは届かないだろうと出窓に置いて、油断して失敗しました(本は弁償しました)。
それでも被害は少ない方です。
大型犬の仔犬の場合、ソファーを破壊した、網戸を突き破った、壁に穴をあけた、ドアを壊した、散歩で引きずられたり、飛びつかれて倒され、怪我をした……まるで怪獣です。
仔犬の見た目の可愛いらしさにだまされてはいけません。起きているとき、ヤツらの中身は悪魔です。静かなときは、だいたい何かやらかしているときです(笑)。
大事な物、壊されて困る物は、手の届かない所、扉のある場所にしまっておきましょう。
悪魔の仔犬も、寝ているときだけは天使です。
好奇心とエネルギーに満ちあふれて、何でも楽しくて、全力で夢中になり、電池切れになると、どこででもコテっと寝ています。
シッポをブンブン振って、帰宅を喜んで迎えてくれる姿に、何度、癒されて、疲れが吹き飛んだことでしょう。
今はもう、仔犬を育てるという体力も気力もありませんが、仔犬から育てあげてお見送りするまで、一緒に暮らしたあの日々は、何ものにも替えられない、大切な幸せな時間だったのだと思えるのです。
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