第36話 ダンジョンの夜

 私はコウメイ。

 マスターであるカゲテル様のために存在するもの。

 今、私は一人の人間のメスを用いて実験、検証中だ。


「ローザ様、お風呂の準備ができました」


「コウメイちゃんいつもありがとう」


 マスターの仲間であるローザ様。

 どうやらマスターと番になることを求めている。

 マスターも嫌がる素振りを見せていない。

 で、あれば。

 マスターに相応しい個体に仕上げるのが私の使命。


「はぁー……気持ちいい……」


「お湯かげんはいかがですか?」


「最高です……それにいい香り……

 なんだか最近髪もサラサラだし、肌もつやつやプルプル……

 もう、お風呂のない生活は考えられないですー……」


「それは良かったです」


 人間の身体に良いとされる様々な物を配合している。

 さらに、お湯と思っているそれは我が同胞。

 全身のマッサージによる血行改善、髪の毛への栄養供給などなど、美しい個体となってマスターを喜ばせるのです。

 今の所実験は順調に結果を出しております。

 人間のメスは胸と排泄口の近くの脂肪が多いと喜ぶという情報はしっかりと手に入れています。

 スライムによるマッサージ、それに日々の食事にもこっそり効果的な成分を混ぜており、すでに胸と排泄口近くのサイズアップに成功しています。

 これでマスターに喜んでいただける。

 

「ローザ様、お風呂上がりにはいつものマッサージは行いますか?」


「はぁ……お願いしますー……」


 ふふふ、私の計画は順調に推移しております。

 待っていてくださいマスター!!


(最近……服がきついのよね……)


 こうしてローザはコウメイの美容計画の標的にされ、極楽マッサージを受けながら、ダンジョンでぐっすりと眠りにつくのであった。

 途中からぐっすり眠っていたマシューとネイサンもこのマッサージで夢の中だ。


 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「ジンゲン、以前のパーティではどんな冒険したの?」


 食事の後、少し休憩した後は身体を動かす。

 剣も槍も身体の延長、無手の鍛錬は必ず行う。

 というジンゲンのススメで、男組は夕食後は組み手で軽く身体を動かし汗を流す。


「……以前のパーティは皆良い奴らでした。

 いくつもの依頼を共にこなし、ダンジョンにも何度も潜りました。

 遺跡でゴーレムに囲まれて必死に逃げたり、ダンジョンのボスが想像を超える強者で、ギリギリの戦いをしたり……冒険者らしい生き方をさせてもらいましたな」


 わざとゆっくりとした動きの中で、一つ一つの動きに集中する。

 なれてくればこうして話しながらも出来るようになるけど、最初の頃は何度となくジンゲンやケイジに地面に倒された……


「一度共に旅をしたが、カサラにパレ、ケロウス、ガイン、マイアにジンゲン。

 良いパーティだったな」


「最初ケイジはパレに声をかけてな、リーダーであるカサラにこっぴどくやられたんじゃ」


「ははは、あんないい女声をかけないことが失礼に当たる!」


「マイアにも声をかけていなければ、格好もつくがな」


「はっはっは!! ケイジの性分よな!!」


「手当たりしだいなんだね……」


「一度しか会えぬかもしれん、ならば声をかけて共に夢を見るのが男の努めだろう」


「儂の知っている男像とは随分異なるがな、だが、結果としてケイジは直ぐにパーティに馴染んだ。

 不思議なやつだと思ったが、まさか領主とはな……」


「帝国の手のものが潜むアジトをジンゲンらと共に襲撃、見事証拠を手に入れた。

 アレが決め手となってコイタルの犯罪組織が帝国の手引したものだとわかった」


「だからって、犯罪組織を自分で作る領主がいるとはな……」


「任侠って奴だ」


「仁義を重んじ、弱気を助け、強気をくじく……」


「かっこいいねそれ」


「遠き国の考え方らしいが、俺も好きだ」


「よし、これぐらいにしましょう。カゲテルもだいぶ虚実が読み取れるようになったな」


「はぁーーーーー……それでも5・6発は食らっちゃったよ」


「実際は力の差があるからそう簡単には打たせてもらえないがね……

 こんな若い子がつえーんだもん……おじさん悲しくなるぜ……」


「全くだ……儂がカゲテルくらいの年齢の頃は、ゴブリン一匹に震えとったぞ……」


「俺にはスライム達がいるからね」


「それだけどなカゲテル。

 あまり自分を卑下するな、スライムも含めてお前なんだ。

 過ぎた謙遜は嫌味になるぞ。

 そのスライムを持ちたくても持てないお前に劣る者は、どう感じる?」


「……そうか……」


「幼少の頃の、記憶がそうさせるのだろうが、自信を持つべきだ」


「うん、頑張ってみるよ」


「さ、風呂風呂! ちょっとなら酒もいいだろジンゲン?」


「駄目だ、ダンジョンで酒はゲンが悪い」


「それに、終わってから飲んだほうが、我慢した分と喜びが混ざって旨い。だろ?」


「そうだ」


「わかったよ、とりあえず風呂だ風呂!」


 

 ダンジョン内でたっぷりと湯を張った風呂にゆったりと浸かる。

 その日の疲れが吹き飛ぶようだ。


「風呂から上がったらよく身体を伸ばしておくように」


「その若さでガチガチの硬い筋肉になったらもったいないぞー」


「わかってますよー、コウメイあとで頼むー」


「かしこまりました」


「カゲテル、俺もいいか?」


「儂も……」


「皆様のところにもスライムを用意いたします」


 スライムマッサージ。

 ベッドで横になってスライムにマッサージをしてもらうのだが……

 これが、本当に気持ちがいい。

 ジンゲンもケイジもすっかり虜になっている。

 ローザが一番長い時間受けているようだ。

 このマッサージを受けながら眠りに落ちると、翌朝の目覚めが違う。

 疲れも完全に抜ける。


 ああ……ダンジョンでの初めてのキャンプ、俺は、完全に眠りへと落ちていくのだった。

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