第37話 スキル持ちモンスター

 翌朝、目が覚めると妙に明るかった。


「ダンジョンの内部だと時間間隔が狂いやすくなるので、朝日の時間に朝日と似た光を出しております」


 コウメイが説明してくれた。

 このダンジョンは一定の光量が確保されている。

 キャンプ中は照明を用意している。

 照明器具は、スライムだ。

 スライムに光魔法で照明代わりをしてもらっているので、光の調整も可能だ。

 確かに朝日を浴びてるような心地よさがある。


「ふむ、非常に素晴らしいな。

 ダンジョンにこもるとどうしても時間間隔が狂って、外に出た後に時差ボケを起こすことがあるんじゃ」


「俺は美女のキスで起こされたほうが嬉しいんだがなぁ……」


「はいはい、ケイジさんも朝からエッチなこと言ってないで、準備準備」


 ローザは少し早く起きているらしい。

 女性には準備が必要なんですよ、とコウメイが教えてくれた。

 マシューやネイサンもぐっすり眠ってすっかり元気だ。


「ローザのご飯は美味しいから楽しみだ」


「ケイジもああ見えて器用でしてな」


「ああ見えては余計だぞジンゲン」


 ジンゲンの言う通り、ケイジはフワッフワのオムレツを手早く作っていく。

 新鮮な野菜のサラダ、オムレツ、ボイルし焼き目をつけたソーセージ、そして焼きたてのパン。

 それを朝日が差し込むテーブルで食べているんだから、ここがダンジョンであることを忘れそうだ。


「しかし、このパンは旨いよなー」


「スライム達が生地を作ってくれて、それを焼くだけでこの旨さ!

 もっちもちのフワッフワ。甘みが違う……」


「儂はこのバターが発明だと思うわけだ……

 まろやかでなめらかな口当たり、それでいてガツンとした香りと旨味……

 くっ……今まで食べたバターは油の塊じゃった……」


「スライムちゃん凄いのです!」


 マシューとネイサンは昨日寝すぎたせいで元気が有り余っている。

 少し工夫を考えないとな……


「お褒め頂き光栄です」


 スライム研究所は食事の研究も抜かりが無いようだ。

 バターやヨーグルトなどの乳製品、発酵、熟成、なんでもござれだ。

 ショウユやミソも作ってくれて、なぜか食べたら涙が流れた……


「王国は小麦ととうもろこしが主菜だよね」


「ああ、米か? ビーチェに行けば交易品も多いからたくさん手に入るだろうな」


 そう、米。

 なぜか魂が求めるんだよね……

 スライム農場で米の大量生産とかできれば良いんだけど……

 収納の内部で食物は育たない。

 発酵やお酒はスライムの収納空間内部ではなく、体内で行われている。

 武器の生成なども全てそうだ。

 収納空間内を有効に使えれば、もっと研究が進むのにとコウメイも嘆いている。


「マシュー、ネイサン。

 今日はこれを授けよう……」


 仰々しく二人に剣を渡す。

 特殊なスライム液を固めた物で、頑丈だけど、軽くて柔らかい。

 叩いてもポコンと当たるだけだ。


「これでスライムの中から助けてくれ」


「わかった!」


「任せといてよ!」


 あとはスライムカーの中で敵を倒すアトラクションをしてくれれば二人も身体を動かせるしちょうどいいだろう。コウメイ、任せた。


『お任せを』


 こうして、本日のダンジョン探索が開始される。

 第4階層は問題なく踏破する。

 しかし、第5階層を暫く進むと異変を感じた。


「何かいる……けど、目視できない……でも確実にいる!」


 現在索敵に使っているのは、普通の視覚、暗視、蛇がよく用いる体温変化、それとコウモリが用いる音響、そして魔力感知、これらを先行するスライムが利用して敵を把握している。

 これを突破するものは、今までいなかったが、予感にも似たものだが、そこに何かがいる。


「スキル持ちかもしれませんね……隠密あたりか……

 全ての認識阻害が起きる。

 それなりに格の高い魔物が出るということだな、気をつけろ」


「スキルを破るのは、スキルだ……【看破】」


 波のようなものが通路を広がっていくのを感じる。

 まるで揺らぐように、それまでよく見えなかった敵の姿が現れる。


「シャドー系の魔法生物、ライトイーターですね。

 隠密中は攻撃できませんので、看破などが使えなければ、いち早く攻撃を察知し、カウンターで倒します」


「簡単に言うなぁ……」


「カゲテルやローザなら簡単だ。とっとと倒して慣れようぜ!」


 それからしばらく戦っていると……


『【看破】スキルを会得しました』


「あれ? 看破使えるようになっちゃったよ?」


「なに? もうか?」


「カゲテルもか?」


「あ、はい。覚えたみたいです……」


「なんて速さだ……」


「スライムが何度も受けてたせいで、会得したみたいです」


「ローザはなんでだ?」


「たぶん、内部のスライムが影響を受けているんだと思う……」


「と、なると、儂たちもこんな感じでスキルを覚えていくのか?」


「これからは……そうかも……」


「そいつはすげーや!!」


「うむ、何という僥倖!」


「良いんですか?」


「良いも何も、良いに決まってるだろ!

 スキルなんて血のにじむような鍛錬の先で得るものだぞ!

 まだまだ成長できるってことじゃないか!」


『必ずスキルを会得するわけではないし、どのような条件があるのだろう興味深い……』


 

 それからいろんなスキルをジンゲン、ケイジに使ってもらった。

 

 【威圧】を覚えた。

 うーん、条件がよくわからない。

 スライムがたくさん受けると覚えるっぽい気もするが……

 相性的なものもあるのかもしれない。

 まぁ、スライムが使えるスキルは俺は使えるし……

 全員がどんどん強力なスキルを覚えてくれれば嬉しいんだけどね……


 こうして、俺達は順調にダンジョンを探索していくのであった。


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