第35話 ダンジョン

 ダンジョン内部は石組みのしっかりとした作りをしている。

 なんと照明も用意されている。

 このあたりはダンジョンごとに全く異なるそうだ。

 真っ暗な完全に穴蔵のようなダンジョンもあって、難易度が上がる。

 扉を越えた先が森の中、なんてダンジョンもあったり、非常に謎が多い。

 俺たちは今、ダンジョンに入って数時間探索を続けているのだが……


「楽ですな」


「やはりそうか」


「楽なんですね」


「スライムはすごいだろ?」


 こういう閉鎖された空間だとスライム偵察は非常に有益だ。

 

「突然横合いに敵が湧くこともあるので注意は必要ですが……」


「罠も索敵も全部やってもらえるとなると……」


「まぁ、戦闘も任せられるんですけどね」


「これは探索ではなく散歩だな」


「た、多少は魔物回しますから……」


「少しは身体を動かさないとな!」


「カゲテルもローザも集中して大事に戦うんだ」


「「はい!!」」


 魔物を間引きながら適度に戦闘を行いダンジョンを進んでいく。


『第1階層のマッピングが終わりました』


 コウメイが精巧な地図を作成する。

 

「もう、普通の冒険者には戻れないな……」


「全くだ」


 ジンゲンとケイジが言う通り、冒険者にとって俺のスライムは便利過ぎる。


「小型の動物を使って似たようなことをする者は出会ったことがあったが……

 ここまでの数は……規格外すぎるな」


「戦闘力重視で大型の動物を従えて、ダンジョンに入れないなんてこともあるとは聞いたな」


「そういえば魔獣使いって珍しいんですか?」


「ああ、珍しいな。仲間にした従魔によって戦い方が偏りがちだし、余程強い従魔でなければ、本人が戦った方が強いし、強い従魔だと本人の負担が大きくなる。普通は従魔維持に魔力を常に消費するからカゲテルは異常中の異常だぞ?」


「元は6匹のスライムだったからですかね?」


「従魔の強さが術者に足されるのも、聞いたこともない……」


「まぁそこは……」


「「「天職って凄いなぁ……」」」


 便利な言葉だ。

 



「前の通路からスケルトンが10体ほど歩いてきます」


「それくらいは俺たちでやろう、数が多い敵を相手にすることも経験だ」


「わかりました、そのまま通します」


「儂とケイジが前で受ける。 横を抜けないように2人は立ち回ってくれ」


「えーっと、遠い位置のを打たないほうがいいってことですよね」


「ローザが真面目に打ったら誰も到達せんよ……」


 がちゃがちゃっと骨や鎧、武器、防具を鳴らせながらスケルトン、骸骨が近づいてくる。

 死体を操っているとかではなくて、生まれた時から骨の魔物だ。

 長く生きていると魔力を利用して武具を生み出していく。

 今まで出会ったものは皆全身装備がそろっているので、長く生きてきたスケルトンが多いようだ。

 それでも、ジンゲン、ケイジは丁寧に敵の攻撃を捌いて突進を許さない。

 回り込もうとする動きも抜群のコンビネーションで先手先手に封じていく。

 俺は後方から槍でフォローしていく。

 ローザも見事な弓の腕前で中距離でも問題なく敵の額を撃ち抜いてくる。

 こんな感じで、スライムを使わない戦闘の練習? 本番だが、 練習を行っている。

 こういう場合は、こういう動きをする。

 そんな感じである程度のルールはあるので、皆が共有していると動きを合わせやすい。

 そこからパーティごとに築き上げていく。

 戦い方は状況によって変化するから、正解は無限にある。

 狭い通路での戦い、広い場所での戦い、敵の構成、さまざまなことを考えて戦うのは……楽しい。

 ばっちり型にはめて圧倒したりすると、気持ちよささえある。

 まだまだ初心者冒険者の俺たちはジンゲン、ケイジから学ぶことはたくさんある。


 でも、自分自身で戦っている。

 ダンジョンを探索して、宝をみつける、その冒険者らしい生活は、楽しかった。

 村での辛い生活に比べれば天国だ。


「さて、4階層への階段を見つけたから、今日はここで休もう」


「ダンジョンで休むのは階層間の階段。これは絶対に覚えておくんだぞー新米達!」


「はい!!」


「どうしても難しい場合は、行き止まりの通路、それも無理なら部屋の角だ。

 ただ、絶対に寝ずの番は必要だ。

 階段なら扉を閉めれば絶対に安全だ。

 唯一の例外は、冒険者、人間に注意しなければいけない」


 階段の踊り場にキャンプを設置する。

 マシューとネイサンは最初は俺達の戦いに興奮していたけど、乗り心地の良いスライムカーに揺られているうちに眠ってしまっていた。

 

「ま、このダンジョンに俺たち以外はいないからいいが、普通の場合は上と下の扉に鈴なんかをつけて直ぐに気がつけるようにするわけだ」


「本当に、この光景を見るとスライム様様だな」


 テーブルにほかほかと湯気を立てている食事が並び、奥にはベッドに水場まで用意されている。


「収納があれば似たようなことできるけど、これだけの量だととんでもない金持ちじゃなければ厳しい」


「スライムは一匹一匹が収納持ちだから、ほぼ容量は気にしなくていいからねー」


「ま、しっかり休んで明日も頑張ろう」


「そうそう、便利なものは使うに限る!」


「お風呂に入れるのが……嬉しい……」


 こうして、ダンジョンで過ごす初めての夜。

 まるで実家のように緊張せずに過ごすことができた。

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