第34話 偶然

「うーん、このまま王都に行っても敵に先手を取られっぱなしで終わりそうですね」


 とりあえず次の目的地を定めないといけないので作戦会議を行う。


「まずは最近の情報を集めないといかんだろうな、急な税の徴収、軍備の拡大、国境線の緊張、調べなきゃいけないことは山ほどある。

 俺のとこに届いた情報はどうも作為的な操作がされているような印象だった……」


 ケイジの持つ地図、北東のケイロン聖国、南東のガリニダーム帝国との国境線も正確に書かれている。半島状になっているメディアス王国、中央の山脈で二分されていて、周囲は海で囲まれている。


「王様の近くの謎の人物……」


 東の平地地帯の中央が王都、コイタルの街との間にもいくつもの大きな街がある。

 そして北と南に進めば海があり、いくつかの港町もある。


「……これからは暑くなる。

 北のほうがおすすめではある」


 ケイジが北の港町を指し示す。


「しかし、南の港、これから暑くなるとこの時期にしか飲めない酒がある」


「さ、南へ進みますよ!」


 目的地は決まった。

 南の港町ビーチェだ。

 

「しかし、素晴らしいなこの馬車は、いや、引いているのはスライムだからスライム車?」


「以前のほうがすごかったのですが、出来る限り目立たないほうが良いですよね」


 現在馬車は2つに分けられている。

 そして、引くスライムには馬に擬態してもらっている。

 偽の死体づくりから着想を得て、スライムが馬に擬態している。

 かなり精巧に変身していて、まずバレる可能性はない。

 4頭の馬スライムがこの世界でも珍しすぎない程度の大きさの馬車を二台ひいている。

 馬が8頭もいるのはかなりの金持ちだけど、ケイジ・ジンゲンのBクラス冒険者、そして俺とローザがCクラスと結構豪華なパーティなので、まぁ常識の範囲内にギリギリ収まる感じだ。


 冒険者であることを示す旗をなびかせ、草原内を走る街道を進んでいく。


「ケイジさんってBクラスなんですね」


「ああ、結構やるんだぜ俺」


「子供がいなければあんな罠にだってやられんくらいには強い」


「そして、さらに強くなった……正直、異常なほどな」


 ジンゲンとケイジは強くなった。

 スライムナイトの隊長格よりも強い。

 全集合体には勝てないけど、結構粘れる。

 これは凄いことだ。

 ケイジの武器は珍しい刀と呼ばれる剣だ。

 居合という鋭い斬撃と突きが強力で、力よりも技と速度で戦うスタイルが得意だ。

 そして、ローザの弓がやばい。

 スライムの強化のせいか全員思考加速が出来るようになって、その状態での超精密速射がちょっとわけがわからない強さを誇る。大群に対しての制圧力はパーティ一番だ。


 今回のジンゲンの事を教訓に、全員スライムを身につけてもらっている。

 鎧の下にシャツみたいにして着込むことで、各属性攻撃への耐性防御や回復魔法など様々なサポートが受けられる。状態の確認も出来てこれはコウメイの素晴らしい案だ。

 これによって全員がある程度の距離だったら連絡を取りながら行動できる。

 コイタルの街に偵察を置きっぱなしにしたかったんだけど、離れすぎるとつながりが途切れてしまうことがわかった。

 プリンスが中継ポイントとして距離を伸ばせることもわかったんだけど、プリンスはまだ子供、戦力の分散は愚策と現状はコイタルの街から忍スライムを引き上げた。

 プリンスは成長するスライムという特殊な個体なので、今後に期待だ。


 王国南の端までの道中は成長した能力の把握などに当てながら進んでいく。

 先行させてビーチェの街には忍スライムを入れて情報収集をしておきたい。

 コイタルの街でかなり目立ってしまっているので、もしかしたら例の組織の監視を受けているかもしれない。


「街道を外れて山脈沿いを進んで魔物相手に修行してるわけだけど、見つけてしまったわけだ」


「ダンジョンですか……このあたりにあるのは儂は聞いたことがないな」


「山脈に少し入った場所にあるから、なかなか見つけにくいのかもしれないな」


「スライムの成長のためにも、行くしかない」


「いいな、手つかずのダンジョンとは胸が躍るな!」


「まったく、ケイジでいる方が生き生きしとるな」


「そりゃそうだろ! かたっ苦しい役所仕事よりも余程良い!」


「ダンジョン……初めてです」


 ダンジョンというのは冒険者の収入源として最も夢がある。

 様々な形をしているが、特徴として魔物が何度も生み出される事だ。

 素材や魔石を大量に手に入れることができるだけではなく、宝もある。

 そして、ダンジョンの最も深くには非常に巨大な魔石がある。

 ダンジョンはそれ自体が巨大な魔物と考えられている。

 内部に取り込んだ人間を魔物が殺して吸収する。

 人間を呼び込む餌が宝だ。

 ダンジョン核と呼ばれる魔石を手に入れれば、一生遊んで暮らせる。

 そのかわり、最後の部屋を守る敵は非常に強力であることが多い……


「余程の巨大ダンジョンでなければ、このメンバーならまず問題ない」


「いやー、楽しみだなぁ!!」


 少し前は死にかけて、実際に表の顔は死んだことになっているケイジが一番張り切っているのはどうも腑に落ちないけど、たしかにワクワクする。 

 冒険者になって、初めてのダンジョン。

 スライム達の成長の糧のためにも張り切って挑むことにする。


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