第29話 コイタル防衛戦

 突然の夜襲だったらしい。

 ゴブリンの軍勢が防壁に火を放ち、必死の防戦でなんとか防壁を守ったが、人間側の被害も甚大。

 ついには再び防壁に食いつかれそうになったタイミングで俺たちが登場した。

 街へと入ったスライムからの映像は凄惨だった。

 マシューとネイサンには刺激が強かったと後悔仕掛けたけど、気丈にスライム達の説明をしてくれている。隊長はジンゲンのことを知っていたので話が早かった。

 やっぱり有名人なのねジンゲン。


「とにかく、この大群をどうにかするぞ」


 防壁の上から援護射撃もしてくれているけど、ゴブリン達は盾を使って被害を押さえている。

 こちらも陣形を整える。

 

『敵は集合して鋒矢、突撃を狙っている!

 アース隊、敵の突撃を防ぎ、左右をファイア、ウォーター部隊で突き、ウインド、ダーク隊の遠距離攻撃で敵を削ぐ!!』


 コウメイが生き生きと指示を飛ばしている。

 普通のスライム達の初級魔法連打も安全な場所から行っていく。


「ふむ、コレは……することがありませんな」


「うちのスライム達は、凄いんですよ!」


 ゴブリン達の突撃をアース部隊が盾でがっしりと受け止める。

 前方の勢いが止まり、押し込められたように動きを封じられた中衛、後衛部隊の横っ腹を剣と槍でさらに追い込んでいく。

 そして密集地帯に降り注ぐ矢と魔法。

 ゴブリンも必死の抵抗をみせるが、バッタバッタと倒されていく。

 そのまま完全に包囲し、殲滅する。


「これで3割ぐらいは殲滅したな、敵はどう出るか……」


「数的には有利に見えますから、総突撃でしょうね」


『お二方は後方に控えるキングを討つために大きく迂回して、合図とともに突撃をお願いします』


「わかった」


「うむ!」


 予想通り、ゴブリンの軍勢は総突撃を仕掛けてきた。

 現状圧倒的に相手の数が多く見える。


 実際の数は……わからないからね。


 横陣で面で突撃し、こちらを包み込もうとする動き。


『今です、土スライム全開放!』


 ダララララララーーー!!

 と増殖する土スライムが一直線に布陣する。


【土魔法】


 ボコッと土がへっこむだけの初期魔法だけど、数が重なれば、巨大な堀が出来上がる。

 ゴブリン達は全速力で進軍しているので、目の前に突然できた堀へと次々にハマっていく。


『水スライム、火スライム、今です!!』


【水魔法】【火魔法】


 堀に大量の水が流れ込む。

 そしてそこに大量の火球が注ぎ込まれる。

 水は一瞬で熱湯へと変化する。


『風スライム、毒スライム、止めです!』


【風魔法】【毒作成】


 霧状の毒を風魔法で堀上部に停滞させる。

 熱湯であえぐゴブリン達は毒を思いっきり吸い込むことになる。

 ゴブリンの大群の殆どが、罠の犠牲になる。


『最終局面です!!』


 コウメイの指示によってナイツオブスライムが左右から挟撃する。

 そして、俺とジンゲンもスライムキングの部隊と隠密にて背後から奇襲をかける。


「カゲテル、そいつがキングです!」


 他のゴブリンとは明らかに異なる大きな兵たち、ホブゴブリンやジェネラルゴブリン、の中に、さらに一際でかいゴブリンがいる。


「ほとんど、オーガだな……」


「うおおおおおおっっ!!」


 ジンゲンの戦斧がゴブリン達を血祭りにあげていく。

 スライム達も遅れをとるなと言わんばかりに戦っている。


「落ち着け俺、平常心だ」


 目の前に立ちふさがるゴブリンジェネラルと対峙する。

 敵は巨大な戦斧、巨大な質量が振り回されている。

 恐怖はない、ジンゲンの方が、強い!!

 一足で敵に肉薄し、その両腕を切り捨てる。


「グギアアアッ!!」


 突然失われた腕に混乱したジェネラルの首を刎ねる。

 背後から襲いかかってきたジェネラルの一撃を躱し、無防備に晒された首を斬る。


「俺とスライムに死角なんてない!」


 戦場の状況が手にとるようにわかる。

 自分の周囲を含めて、全てが……


 キングを守るように兵が集まるが、すでにこちらのスライムが囲んでいる。

 あちらのキングは、味方を犠牲にして戦場を離脱しようとしている。


「どうする? 同じキングとしてああいう奴は?」


 スライムキングから怒りの感情が伝わってくる。


「任せていいか?」


 自信という返答。


 周囲のスライムがざざっと円陣を組み、その中央には残された最後のキング、そしてスライムキング。


「ググアアアアア、カトウナ、スライムゴトキガァ!!!」 


 あまりの怒りに顔の形相がめちゃくちゃになっている。

 戦争が出来るくらいの知能を持つゴブリンキング。

 ゴブリンにしては立派な鎧に身を包み、巨大な大剣を持っている。

 でも、さっきの味方を囮にして逃げようとしていた姿を見ると、その姿が虚栄のように感じる。

 一方スライムキング。

 ボテッとした可愛らしいフォルムからは想像もできないキャタピラ走法で戦場を縦横無尽に駆け巡る。眷属であるナイトのすべての武器を使用でき、戦場においては誰よりも勇敢に先頭で戦う。

 王としての格の違いはすでに見せている。

 周囲のスライムの信頼と力を受け取り、今、敵のキングと対峙する。


 戦闘が始まると、意外にゴブリンキングは正統な強さを見せた。

 3メートルはありそうな巨大な剣を軽々と振りまわし、その力を十二分に示している。

 スライムキングは大盾でしっかりと敵の攻撃を受け、近づけば剣、中距離なら槍、離れれば弓と魔法でゴブリンキングを攻め立てる。

 それらの攻撃を見事に受けるゴブリンキング、予想を遥かに超える名勝負になっている。

 防壁の上には人だかりができて盛り上がっている。

 賭けもしてやがる。

 

 すでに戦場の洗浄も終えた。

 堀も水も毒も回収して、ゴブリンの死体やら装備やらもスライム達の腹の中に収納してある。

 街の中で治療にあたっていたスライムも合流した。

 全てのスライムが集合したことで、スライムキングの力が増していく。 


「決まりますね」


 ゴブリンの王が振るう必殺の一撃、スライムの王が剣を弾き飛ばし、槍の一撃がゴブリンの胸板に穴を開けた……


 観客の歓声とともに、コイタル防衛戦、完全勝利だ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る