第28話 模擬戦と慢心

「先に言っておきますが、俺は仲間にしたスライムの力が自分の力に加わりますので、単純な力とかなら結構とんでもないことに成ってますんで」


「わかりました。心得ておきます」


 ジンゲンが目の前で構えると、その巨躯と隙きのない構えのせいで、まるで山みたいだ。

 クイーンアント戦で一緒に戦った人たちにも似たプレッシャーを感じる。


「お願いします」


 普通の木剣と槍だとすぐに折れてしまうので、コウメイ製の特殊カーボン素材の模擬戦武器を使用している。防具も同様で、これなら不測の事態が起きても即死のような状況にはならないらしい。


「せいっ!」


 まっすぐ進んで、打ち込む。

 正直、ガウさんのことがあったので、俺は、舐めてかかっていた……

 ゆっくりと地面と空が逆転して、倒された時、それを思い知った。


「え?」


「油断大敵ですよ」


 ピタリと槍が首元に添えられていた。


「何が?」


「カゲテル様の力が凄いことは聞きました、その速度にも驚きましたが、あまりにも素直……

 ですのでその力を利用させてもらいました」


 加速した世界で、何も出来ずに倒された。

 まるで逆らえない川の流れに巻き込まれたように、倒された……


「す、凄い……」


「しかし、腕が痺れて、腰が悲鳴を上げました。

 いやいやいや、まっこと凄い力……きちんと剣を学べば剣聖にも挑めるかと」


「ジンゲン、いや、ジンゲン師匠!

 俺に、戦い方を教えて下さい!!」


 頭をぶん殴られたような気持ちだった。

 実践だったら、俺は殺されてローザたちも守れなかった。

 スライムの力にあぐらをかいて、自分自身を鍛えることを怠った……

 なにが冒険者だ……


「顔を上げてくださいカゲテル様、もちろんしっかりと強くなってもらいます!」


「ジンゲン師匠……」


「師匠はよしてください」


「では、ジンゲン、俺のことはカゲテル、様はいりません!」


「……わかった、カゲテル、儂もまだまだですが、共に武の頂に登ろうじゃないですか!」


 俺はジンゲンの熱い手を握り返した。


 とても大切な事をしれた。

 ジンゲンと出会えて本当に良かった……

 

『マスターの鍛錬をなさる時はダイレクトに負荷が行くように調整します!』


 流石はコウメイ。

 こうして、俺はジンゲンとの鍛錬が日課に加わった。

 ローザも同じように手ほどきを受けることになり、俺達自身の力も増していくことになる。


「ジンゲン、やっぱりこんな恵まれた環境じゃなく冒険者っぽい旅にしたほうがいいかな?」


「いや、鍛える時は鍛える。休む時は休む。

 体を使って、いいものを食べ、よく休む。

 冒険をしながらこの環境が得られるのはむしろありがたいことです。

 それに、一度これを知ってしまうと……」


「確かに……もう、普通の家でも、我慢できないかもしれないです……」


「良かったなコウメイ、それにスライム達!」


 馬車が日に日にパワーアップしていた。

 遺跡で手に入れた装置によって、俺の魔力が定期的に保存されている。

 俺の魔力の総数は全てのスライム和、つまり全部足した数なので、恐ろしい量だ。

 さらに、回復量が、全スライムの回復量を足した量なので、これも化け物だ。

 能力値は一匹一匹の数値、ナイト達でも、そこまで高くないが、とにかくまとまると数の暴力になる。

 その化け物回復力を遺憾なく発揮して、魔力を溜められる容器に魔力を溜め続けている。

 そして、その魔力を動力に、空調、照明、炊事、お風呂、上下水システムを動かしている。

 カゲテルの知識で言うキャンピングカーというものに近い。

 かなり巨大で、馬車としては異様な見た目になった。

 そのかわり、家を出す必要も無くなっている。


『カゲテル様、少し新兵器の試運転にご協力ください』


 馬車の上部に出ると弩のような物が備え付けられていた。

 狙いを定め、岩に向かって撃つと……


 ジュッ……


 見事に穴が開いた。

 

「何と戦うつもりなんだ……」


『いざというときの備えですから……』


 最終的には前方に2門、後方に2門備え付けられた。

 そんなこんなで、山道は終りが見えた。

 王都周囲の広大な平地が俺たちを迎えてくれる。

 そして、街道の反対側、大きな街がある。

 東西の交易の要、西のラーケンと東のコイタル。

 

 久しぶりに、街へと到着するのであった。


 そして、街は……襲われていた。


「街の反対側だ! 急ぐぞ!!」


 ゴブリンの軍勢が街の防壁にたどり着きつつあった。


「壁から引き剥がせ!!」


 冒険者と衛兵の混成隊と戦っているゴブリンの軍勢の横っ腹をスライムナイツが食らいつく。


「手伝います。スライムは味方なので攻撃しないでください!」


「助かった!!」


「負傷した人はいますか!? 今のうちに下がってください!」


 スライムナイト達はあっさりとゴブリンの軍勢を押し返し、一時戦闘状態の開放に成功した。

 しかし、ゴブリンたちも直ぐに引いて陣形を立て直してきた。


「カゲテル、この動き、敵にジェネラルか……キングがいると思われる」


「そうだ、キングがいる! もしかしたらハイキングかもしれん!」


「……わかりました。みなさん一旦街へ引いてください。

 それと、このスライムをけが人のいる場所に、治療します」


「君たちは……?」


「ご覧の通り、頼もしい仲間がいますので、出来る限り時間を稼ぎます。

 みなさんも体勢を立て直してください!」


「……す、すまん!!」


 俺も戦うと勇んでいたマシューとネイサンは街へと向かわせた。

 俺の代わりにスライムが敵じゃないことを説明してくれと仕事を与えると、素直に言うことを聞いてくれた。


「ローザは上の銃座から、好きなだけ攻撃してくれ、俺とジンゲン、そしてスライムで、ゴブリンと……戦争だ!」


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