第23話 山越え
ラーケンの街を出て東に進路を取る。
大きな山脈があり、そこに開かれた山道を抜けると、この国の中心地帯である平地地帯が広がっている。
過去には道なき道を抜けて見つけたラーケンの周囲の穏やかな土地。
今では山道は広く整備されている。
かなりの犠牲を出したらしいが、この街道のおかげで西から豊富な鉱物や食料が手に入り、大いに国が富んで強い国へと変わった。
「……というのがうちの王国、メディアス国の歴史です」
「カゲ、でも王様なんて見たこと無い。本当にいるの?」
「今の王様はメディアスⅥ世でちゃんと生きているし、生活をしていれば税金も納めているよー」
マシュー10歳とネイサン9歳との距離はすっかり縮まった。
スライムのおかげだ。
今もこの国の歴史の勉強中だ。
それ以外にも軍師くんが勉強用の本や道具をたくさん作ってくれて、道中も退屈しない。
ローザ16歳も最低限の教育しか受けていなかったらしく、俺の話す授業を興味深く聞いてくれている。
「カゲテルって、なんていうか、貴族の子なの?」
「いや、普通の人間だよ、人より好奇心が強いのと、やっぱりスライムがね」
高速思考なんて普通の人間は持ってないから。
俺はカゲテルの知識を軍師くんと一緒に研究したりしているから、この世界では特殊なレベルの教育を受けているようなものだ。
「王国は北、西、南は海に囲まれて、北と西は山脈によって海沿いは人が入り込めない。
南の海のそばの森は非常に強力な魔物が多く、西のラーケン周囲の平地地帯と、王都付近の広大な平地地帯が重要になっているんだ。残念なことにその間には山脈が横たわっていて、その山脈に街道を通したことで、手つかずの豊かな土地を手に入れて大きな国になれたんだねー」
「それが今走ってる場所ー?」
「そう、初代王の名をつけられたエレヴェン街道だね」
今会話をしているのは馬車の中だ。
俺も、ローザも、マシュー、ネイサン全員が馬車の中で会話している。
これがスライム車の最高の利点だ。
操作はすべてスライムにお任せ。
内部はスライムクッションによって衝撃などは和らげられており、快適そのもの。
先行部隊に索敵をさせているので敵を発見したら部隊を送り込んで対処できる。
今の所俺が必要なほどの敵とは出会っていない。
スライムキングと同時に生まれたナイツオブスライム。
炎の剣を操るファイアーナイトとその部下100体。
水の槍を操るウォーターランサーとその部下100体。
土の大盾を操るアースガーディアンとその部下100体。
風の矢を操るウインドアーチャーとその部下100体。
回復、補助魔法を操るライトヒーラーとその部下100体。
攻撃魔法、阻害魔法を操るダークマジシャンとその部下100体。
コレがナイツオブスライムの内訳だ。
各リーダーはスライムとは思えないほどに強い。
1対1ならDクラス冒険者でも手こずると思う。
集団戦闘ならかなり危険な存在になった。
スライムキングは俺と似た能力があって、近くのスライムを強化するし、近くにスライムがいると強化される。全ての力を操れるし、非常に強い。
Bクラス冒険者でも相手できると思う。
基本的な戦闘は、彼らが中心となっている。
それ以外のスライムは、採取したり、製造したり、研究開発したりと軍師くんの下で頑張ってくれている。
錬金スライムも無事成長し誕生した。
これで薬とか、お金になるアイテムを作れるようになった。
明るい冒険者生活が広がっていく……
「お、丁度いい数の敵だ。さぁ、ローザお仕事だ」
「はいカゲテル」
「いってらっしゃ~い」
「いってらっさーい」
贅沢な話だけど、腕をなまらせない程度に敵を相手に戦いをしている。
そして、ローザの腕前は、かなりのものだった。
俺が灰色のオオカミ、グレーウルフを2体相手にして斬り伏せる間に5匹の眉間を撃ち抜いている。
「……私、どうしちゃったんだろ……」
最初は自分でも戸惑っていた。
矢を構えるとまるで時間がゆっくり進んでいるように集中できて、明らかに放つ矢の威力も上がっているらしい。
「人間死ぬ気になるとなんでもできるって言うし、一度死を体験して強くなったんだよ!」
とか、ごまかしているけど。
多分体内のスライムの影響だろう。
俺のそばにいるスライムも、強化される。
俺はテイムしたスライムの力を上乗せされるので、さらに強くなっている。
借り物の力だけど、安全に旅してこの世界を見て回るのには本当にありがたい力だ。
「……霧が出てきたな……少し冷えるし、今日はこのあたりで泊まろうか」
街道沿いの適度に開けた場所で野営をする。
もう何度も行ってきているので手慣れたものだ。
マシューやネイサンも食器を並べたり手伝ってくれる。
野営、と言って良いのか?
家を出してそこで夜を過ごすことは野営とは言わない気がする。
組み立て式住居は素敵すぎる。
そんなこんなで、俺達の旅は、順調そのものの始まりを見せていた。
山脈の最大の山、その最高到達点に着くと、目の前に素晴らしい光景が広がっていた。
快晴のもと、美しい緑色の広大な平地が広がっている。
王都を含めて、この国を一望できる。
「凄いな……」
「凄いね」
「うわーーーー!」
「ひろーーーい! たかーーーい!」
この光景を見れただけでも、俺は冒険してよかったと思える。
しかし、冒険には危険がつきもの……
その言葉を理解するのに、それほど時間は必要ではなった。
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