第24話 山の災難
美しい景色を見ることができれば一番の難所を越えたことになる。
山登りに置いて、登りよりも下りの方が危険が高い。
特に馬車、馬はかなり負担をかけながらの行程になるために、注意が必要になる。
もちろん、スライム車は関係ない。
いざとなればスライムが車の下に入り込んで高速移動なんて裏技も有る。
車の内部の人間はスライムによって安全を確保されているので、急発進急停車もなんのそのだ。
「ん? 様子がおかしいぞ」
前方の偵察から、必死の形相でこちらに逃げてくる人々の画像が来る。
山を超える主要な道はこの街道しか無いので、人とすれ違うことは珍しくないが、明らかに様子がおかしい。
「少し急ぐぞ!」
さっそく裏技を使って高速移動する。
俺もローザも車の前に出て周囲を警戒する。
「戻れ戻れ! 山の災難が出たぞ、大量だぞ!」
「ゴーレムか!」
山の災難、超古代の魔導兵器と呼ばれるゴーレム。
人里離れた山や、深い森の奥、遺跡に現れることが有る。
どんな理論で動いているのかわかっていないけど、頑丈で、タフで、力強く、相手をするのが非常に大変だ。
そして、倒すとただの石になってしまうために、苦労して倒す旨味がない。
出会ったら、逃げる。
それほど歩みが早くないことが救いだ。
動くものは人間だろうが魔物だろうが襲うので、うまく魔物になすりつけたりして、実力以上の魔物を倒す事もできたりするけど、そんなシチュエーションはなかなか起きない。
「無駄に戦う必要はないか……」
少し速度を落とそうとしたが、そうも行かなかった。
「戦っている人がいる……なるほど、そりゃ逃げ切れないな。
予定変更、急いで向かうぞ!」
大柄な男が、3人のけが人を抱えてゴーレムと戦いながら逃げようとしている。
よくまぁ、立ち回れているなと感心する。
ナイツオブスライムの一部隊を先行させておいてよかった。
『アース部隊、25体を一塊でゴーレムからあの人を守れ』
ガーディアン部隊がゴーレムの前に割って入る。
巨大な盾でゴーレムの攻撃を防ぐ。
突然乱入した魔物に驚いた男に、最近考案した光魔法による文字での指示をする。
『このまま進んで、スライムは従魔』
この方法で遠隔の人にも意志を伝えられる。
スライムが突然電光掲示板を持って現れたら驚くだろうけど、便利なのは間違いない。
「大丈夫か? 乗ってくれ!」
スライムが引く馬車が現れたらそりゃ驚くよな……
「冒険者ギルド所属、スライムマスターのカゲテルだ」
「かたじけない!」
巨体が車にのると少し軋むが、問題ない。
3人寝かせても広々とした空間だ。
「冒険者、ジンゲンと申す……助太刀……感謝する」
それだけ伝えるとがくりと倒れ込んでしまった。
調べてみると、背中に激しい打撲痕があり、ひどい内臓出血を起こしている。
「……迷ってる暇はない」
ローザの事もあったが、やらなければ死ぬ。
他の3人は命に別条はないので、スライムベッドに乗せて回復魔法をかけてあげると直ぐに顔色が回復した。
問題はジンゲンさんだ。
すぐに処置に入る。
局所に麻痺させた腹部の正中から腹腔内に小さな切開創を作り、そこからスライムを侵入させる。腹腔内に溢れた血液を回収、細菌などの有害なものは消化吸収し、損傷した肝臓血管から自己輸血を行う。そのまま裂けた肝臓を医療スライムで処置をしていく。
いずれは体内に吸収されていく粘着液で臓器や血管を接着させる。
打撲痕や皮下出血は回復魔法で対処する。
カゲテルの医療知識と、魔法による回復のあわせ技だ。
ローザの時よりも処置のレベルは上がっている。
スライム一匹取り込ませて臓器の回復を待つなんてことは、もう必要ない。
すべての処置を終えると、目に見えてジンゲンの顔色が良くなる。
『マスター、最小限に押さえましたが、やはりスライムの体積が7%ほど減少しました』
『……仕方ない。活かすことのほうが重要だ。ありがとう』
また、スライムの影響を受ける人を増やしてしまった……
繊細な操作の時にどうしてもスライムの体細胞が血流などに乗ってしまったり、組織に張り付いて持っていかれてしまう。
コーティングすれば精度は落ちる。
ローザを見る限り、マイナスな作用はない……はずだ。
ジンゲンさんを救う唯一の方法だったと、確信している。
「さて、ゴーレム戦も問題ないね」
すでにゴーレムはバラバラに解体され、土スライムが吸収している。
軍師くんがゴーレムの仕組みを解析したいということで、すべての素材を吸収してスライムラボ行きになった。
「かなりの量のゴーレムだな……はぐれにしては多すぎる……」
周囲を丁寧に探索する。といってもするのはスライムだが。
この街道には確かにゴーレムが出ることが有るが、こんなに大量に出る話は聞いたことはない。
ゴーレムが集団で存在する場合は遺跡が近くに存在する可能性がある。
この山脈は街道が出来てからは街道しか利用されなくなっているので、もしかしたら……
「本当にあった……」
スライムの視界には崩れた巨大な門が写っている。
「未発見の遺跡……か……ローザ、みんなを頼んで良いかな?」
「一人で行くんですか?」
「ひとりじゃないよ、スライムはたくさんいる。
それに、どうやら門が壊れたのは最近のようだ、放って置いたらまたゴーレムが出て犠牲者が出てしまう」
「わかりました。無理をしないでください」
「大丈夫、俺は慎重だから」
「ふふっ、わかりました。みなさんのケアは責任を持って見ます」
適当な場所を見つけて家を作り、みんなを運び込む。
「マシュー、ネイサン、ローザを頼むぞ」
「任せといて!」
「気をつけてね」
ある程度まとまったスライムをまとめて置いておく。
軍師くんと戦闘用、探索用スライムを引きつれて、俺は遺跡探索へと向かう。
「手つかずの遺跡とか……ワクワクするなぁ……!」
冒険者の花形といえば、遺跡とダンジョンと相場は決まっている。
初めての遺跡探索に、テンションが上ってしまうのは仕方がなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます