第22話 今後

 とりあえず今後どうするかを話すためにも、弟さんたちと一緒に食事をしに来た。

 昼時のいい香りでマシュー君とネイサン君も飛び起きた。

 好きなものを頼んでいいと言うと、弾けんばかりの笑顔で喜んだ。

 こ、これは母性が溢れてしまう。


「す、すみません、良いんですか?」


「気にしないでください。

 これからはパーティなんですから、それに、俺、思ったよりお金持ちなんで」


「ふふふっ、じゃあ遠慮なく」


 うん、なんだろこれ、いつもの食事がすっごい楽しい。

 スライムと話している食事も悪くないけど……


『マスターすみません。少しローザさんの瞳を見てもらえませんか?』


『え、う、うん』


 大きな瞳、優しく微笑んでいると、どきどきしてしまう。

 

 ん?


 なんだろ……

 すっごく親しみを覚えるぞ。


「あ、あのー……そ、そんなに見つめられると……

 て、照れます」


「あ、あーごめん!!」


 まわりの顔見知ったお客から茶化されてしまった。


『なにかわかった?』


『断定は出来ませんが、目の前の女性は間違いなく人間です。

 ただし、ほんの少しだけ我らの残滓が完全に融合して溶け込んでますね。

 我々が強くなると、もしかしたら彼女にも影響が出るかもしれません』


『なにか弊害が起きるの?』


『予想でしかありませんが、普通の人間では考えられないほど成長する可能性があります』


『良いこと……だよね? 冒険者としては』


『そうですね』


『でも、明らかに彼女の運命を俺、変えちゃったんだよね……』


『死よりは遥かに良いと今なら答えます』


「確かに、確かにそうだな」


「え? なにか言いました?」


 貪るように食べる弟の世話を一生懸命していたローザ。

 俺はスライムにその補助をお願いする。


「まぁ……」


 姉が言っても聞かなくても、スライムがにゅるにゅると矯正すると、少しづつお行儀よく食事が出そうになる。俺のスライム子育ても出来るの? しゅごい。


「ありがとうございます。

 だんだん言う事聞かなくて……」


「まぁ、子供の頃はそんなもんですよ」


 ぶわっと久しぶりに両親の氷のような視線を思い出した。

 息を潜めて部屋の隅で残飯を食べていた日々……


「大丈夫ですか?」


「あ、うん、大丈夫。さ、食べよう食べよう!」


 今はこんなにも楽しい時間になっている。

 大丈夫、俺は、今、自分の人生を自分の力で歩んでいる。


「ローザ、俺はいずれは街を移動するつもりだ。

 出来ることならこの世界を全て見て回りたい。

 冒険が俺の目標なんだ」


「素敵だと思います。

 私も出来ることなら色んな場所に、行ってみたいです」


「スライム達がいれば、よほどのことでなければ弟さんたちも一緒に旅をしても大丈夫だ。

 君が嫌でなければ、そういう形でもいいかな?」


「もちろんです!」


「急ぎではないけど、その方向で準備をしていこう。

 ところでローザって冒険者としてどういう戦い方するの?」


「えっと、基本的には短剣と弓を使ってました。

 狩りにばっかり使ってましたが……」


「一応俺は前衛だから前衛後衛で役割分担できるね」


「スライムマスターカゲテルは何でも出来る。特に斥候としては超一流だって聞きました」


「俺がっていうか、スライムが、ね。

 スライム一匹一匹はそこまで強くないから、俺も頑張らないと」


「私も頑張ります」


「今装備無いんだよね?」


「はい……もう、全部だめになっちゃいました……」


「まずはそこからだね、あのさ、蟻の革を使った防具とかでも大丈夫?

 恐怖とかない?」


「全然大丈夫ですよ、ちょっとゴブリンが怖いですけど……

 乗り越えます!」


「弓と短剣と軽い鎧っと……ちょっとだけスライムが触っていい?」


「え、はい……わー、なんか面白いですね……もっと固いのかと……

 全然濡れたりしないんですね!」


 スライムが寸法を測る。俺は知らないぞ。うん。

 そしてトンテンカンと今ある手持ちの素材で短剣を二本、弓と矢を一揃、革製の革鎧をスライム工房で作り出す。

 カゲテルの知識と軍師君のおかげで作れる武具の質も跳ね上がっている。

 これからも魔物や動物の素材、鉱石類を手に入れて、どんどん良いものを作っていこう。

 楽しみだ。


 マシューとネイサンにも、俺とスライムと一緒に旅をするのはどうかと訪ねたら、二つ返事でOKをもらった。やはり男の子は冒険に憧れるものだ。


 食事を終えたら先程作った装備一式を渡す。

 それと、お金も少し渡しておく。


「あの、これは……?」


「みんなの旅支度を整えないといけないからね、スライムつけておくからその子に収納させとくよ」


 3人にそれぞれスライムをつけさせる。

 これで何か有れば直ぐに対応もできる。


「そのスライムを通じて俺も呼べるから。

 何か有れば呼んでね」


「何から何まで……」


 ローザが涙ぐむ。

 俺からすれば、なんか兄弟が出来たみたいで、家族ができたみたいで、救われたのはこっちの方だ。さすがにそれを伝えるのはこっ恥ずかしい。


「大丈夫、おれも受け取ったものがあるよ」


 くっそ寒いキザなことを言ってしまった。


「ちょっと俺も準備が有るから、またね!

 何か有れば宿にいるか、スライムで呼んで!」


「はい! 一緒に旅するのを楽しみにしてます!」


 いろいろと準備が必要なのは本当だ。

 恥ずかしくて我慢ができずに逃げたんじゃないぞ……!

 

 旅をするとなれば移動手段が必要だ。

 スライムボードで良いんだけど、流石に新しい国とかでアレは非常識すぎる。

 基本的には馬車だよね。

 もちろんひくのはスライムだけど……

 馬車づくりの素材は、近郊の森で調達する。

 スライム工房で作る馬車は、良いぞ。

 きっと良いものだ。


 それからしばらく、俺は旅のための準備に追われた。


 ギルドが機能しだしたのは夕方。

 俺は、近いうちに街を出ることを伝えた。


「そうか、寂しくなるな」


「うう……お酒置いていってね……」


「スライムマスター!! 頑張れよ! 女の子と旅とか羨ましくないからな!!」


 みんな温かく送り出してくれた。

 メリダさんには新作の「どこまでも原液に近い透明な輝き」を渡した。

 樹液よりも濃厚な化け物だが、癖の無さでどんな飲み物もお酒に変えてくれる。

 さすがのメリダさんも長持ちしてくれるだろう。


 厳しい寒さや食糧不足も、大量の蟻素材によって乗り越えることが出来た。

 寒さも和らぎ温かい春の日差しに包まれる頃、俺達は冒険の旅へ出発する。


「それじゃあ、行ってきます!!」


 スライムが引く馬車に俺、ローザ、マシュー、ネイサンを乗せて走り出す。

 俺たちの冒険は、ここから始まっていく!

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