第20話 再会と罪
隣りに座っている冒険者ローザ。
蟻たちから救った人々の一人で……
体内にスライムを取り込んでしまっているだろう人だ。
「あ、その、か、身体は大丈夫ですか?」
「はい。もうすっかりきれいに治って……お医者様も驚いていました」
「そ、それは良かったです」
ローザは赤髪を自然に肩のあたりまで伸ばしており、大きな瞳にすっと通った鼻筋に小さな口。
なんというか、たぶん、いや、結構かわいい女の子。
鎧を着ていた時や治療中には全く気にもしなかったけど、その、普段着だと女性っていうか……
冒険者としておっさんと飲んだくれのほぼおっさんくらいしか接点がないので、その、ま、まともに……
「カゲテル様のおかげで私も、弟も命を救われました。
本当にありがとうございました……」
「い、いやその、ローザさんのほうが先輩ですから、様とかじゃなく普通に呼んでいただければ……」
「だったらカゲテル……さんも普通に話してくださいクラスは上なんですから」
「は、はい。がんばりまるす」
「ふふっなんですかそれ!」
「いや、ははははは!」
「あら~~カッちゃんがエッチなことしてるー」
「し、してないよ!」
「ど、どうも……」
「ふーん、こーんな可愛い子とコソコソ何してるのよー。
おっさんたちがあっちで歯ぎしりして睨んでたわよー」
「ああ、彼女はローザさんで冒険者ですよ。
この間森でゴブリンに……」
「ああ、大変だったわね。
弟さん達は宿舎?」
酔っ払いの面倒くさい絡みからすぐにギルド職員の表情になる辺りは流石だ。
「はい、お世話になっています」
「これから大変ね……どうするの?」
「はい、とりあえず何もかも失ってしまったので……弟たちの面倒を見てくれる場所で働きながら、なんとかお金をためて……」
「そう、大変ね……しばらくはギルドが支援するから、いい所が見つかると良いわね」
「はい……でも、助けてもらった命、大切にします」
「それにしても、治療までしちゃうんだからカッちゃんのスライムは凄いわねー」
「傷も殆どわからないんですよ、ほら」
ぺらりとめくられたお腹はよく鍛えられているけど、男のそれとはまるで違う。
傷は本当にうっすらと残っているけど、ほとんどわからない、貫通するほどの傷が一昨日にあったとは信じられない。
「ジロジロ見すぎよーカッちゃん!」
「い、いや、その凄い回復力だなぁって……」
「治療したのカッちゃんでしょ!」
「そうですよ、むしろ前よりも今のほうが体調がいいと言うか、力が溢れると言うか……」
「……」
『軍師くん、あのさ、この子体内にスライム入ってるよね……?』
『気配は薄まっていますが、同胞の気配を感じます。
記憶を見させていただきましたが、組織と同化して、彼女の中に融合したのかもしれませんね』
『今後どうなるの……?』
『不明です』
『何が起こるかわからないってこと?』
『そうですね……我々はほぼ水なのですが、マスターのお力で普通のスライムとは常軌を逸した存在になっておりますので、彼女自身にどう働くは予想が付きません……』
『とんでもないことをしちゃったってこと?』
『申し訳ないのですが、死という状態との天秤にかけてどちらが問題か、という問いにはお答えしかねます』
『……そうだね。ごめん。あの子は俺の思いと期待に答えてくれたんだもんね……』
『提言としては、彼女はそばに置いたほうが良いと思います。
何かあった際に、マスター以外が対処できる可能性は低いです』
『そうか……ありがとう』
「カッちゃん? エッチな妄想してないで戻ってきてー」
「エッチな妄想なんてしてないよ!」
ローザさんが赤くなってうつむいている。
「へ、変なこと言うから!」
「だってー、蟻殺し飲みたいなーって言っても無視するから……」
「ほほう、流石はメリダさん、酒に対する知的好奇心は素晴らしいですね。
ありますよ”蟻殺し”」
「(カゲテルさんが急に早口になって饒舌になった)」
「流石にグラスは……味見だけ、いいかい?」
「(メリダさんの目が……変わった……!?)」
「これを……」
「(なにこれ、目が痛い!!)」
「ほほう、強烈な香りは竜殺しと同等、しかし鼻孔を突き刺す刺激臭……」
「(の、飲んだー!?)」
「……凄い癖……でも、悪くないね」
「流石はメリダさん、お目が高い」
それから俺は、すっかりローザさんを忘れてメリダさんとカクテル作り談議と酒談議に花を咲かせてしまった。結果として冒険者が集まってきて、ローザさんも巻き込まれてもみくちゃになってしまった。
酒精の強いものから弱いものまで、様々な酒を作ると、飲み屋の店長さんも興味津々、多くのカクテルレシピを提供した。
「……これは……やばいね……」
その中でも現段階で最高と言って良いカクテル。
ケラスさんからもらった酒をベースにロイヤルゼリーを用いたカクテル。
「まさに、酒の皇帝……ロイヤルエンペラーだ……」
この瞬間、全世界の上流階級で愛されるカクテル・ロイヤルエンペラーが誕生した。
「口当たりがよくまろやかでありながら、口に含むと全身を香りが包み込むようだ。
極上の香りに酔っていると体の芯から熱を出すように力が、そして、多幸感が……
ああ、これはまるで生命の誕生……天使が優しく身体を包み込んでくれるようだ……」
俺を含めて、皆うっとりとした表情でこの酒を楽しんだ。
実際にお店で出すとすると、金貨数枚はくだらない……
しかし、間違いなくその価値が有る逸品だ。
「模倣酒作りは封印だな、製造者に対する侮辱だ」
俺は、安易にこの能力を使わないことを決めた。
素晴らしいお酒を飲むと、その向こう側に作り手の顔が見える。
そして、その苦労を思うからこそ、酒は美味しいのだ……
酒の世界から戻ると、周りは寝息を立てていた。
そして、俺の腕を掴み肩に寄りかかって眠るローザさんが起きるまで、俺は微動だに出来ずに酒を飲むしかなかった……
しばらくしたら軍師くんがみんなをギルドの中に運んでくれた。
俺も宿へ帰って眠ることにした。
ローザさんとちゃんと話さなければ……
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