第19話 錬金術
「ここが錬金術ギルド……」
冒険者ギルドと違って、汗臭くない、なんかいい匂いがしてる。
「さぁ、こっちじゃ」
ケミカルさんはぐいぐいと俺を引っ張って奥へと連れて行く。
「おおお、え、えっとお邪魔します」
多くの職員さんがなんだかよくわからない道具で何かをしている(語彙力)
「ここが作業室、ギルドに所属するものが自由に使って作業ができる。
ああ、忘れとった。ほい、コレ」
ケミカルさんがなんかカードを渡してくる。
なになに? 錬金術ギルド証……カゲテル……
「俺のギルド証? なんでですか?」
「複数ギルドに所属するものもいる。
年会費も免除してやる。さぁ、ここで話を聞こう。
まずは、竜殺しの木の樹液をどうやって作ったのだ?」
なんていうか、自分の聞きたいこと以外聞かないぞという強い意志を感じる瞳だ。
仕方がないので説明していく。
「えーっと、穀物に含まれる成分を抽出して、酒精へと変えて、濃縮して……」
「まてまてまて、確かに穀物から酒は作れるが、かなりいろいろな工程を踏まないといかんぞ?
いくら錬金術でも直接抽出は出来ないし、濃縮?」
「いや、スライムの力でやってるので……えーっと……そもそも錬金術がどんなものかよくわかっていないので……」
「ふむ、錬金術とは、分析、分解、抽出、合成を基本として様々な物を組み合わせて薬や時に素材を作ったりするんじゃ」
それから普通に錬金術講義が始まった。
感想としては……
すごく面白い。
「酒の本質はアルコールと呼ばれる成分なんです。
純粋なアルコールはこれです。
今回は芋から作ったので、コレがアルコールを取る前の芋で……
これがアルコールを抽出した後の芋です」
「すぐに分析するんじゃ!
素晴らしい、飲み込みも早いし、説明も理にかなっておる。
カゲテル氏、冒険者なんて止めて錬金術師にならんか?」
もうひとりのカゲテルの知識が大活躍だ。
「しかし、スライムというものは素晴らしいな……
複雑な処理を必要とせずに分解、抽出……欲しい、欲しいぞ……
これほど天職を羨ましく思ったことはない……」
「とりあえず、役に立ちそうな道具の構想はまとめておきます」
カゲテルの知識から化学系の実験道具をわかりやすくまとめたノートを渡すことを約束して、ようやく解放された。
『マスター、マスターの知識と錬金術ギルドで得た知識を元に、仲間を変化させてよろしいですか?』
「そんな事ができるの!?」
『私のスキル【師事指導】で可能です』
「凄いね……じゃあ、お願いするのね」
『わかりました。結果を楽しみにお待ち下さい』
「わかった!」
こうして有意義な時間を過ごした。
なお、ノートは有能軍師が一瞬で完成させてくれた。
挿絵も豊富で字も美しい。
コピーも大量に作れるらしく、渡したら錬金術の教科書にする!! と大層感動された。
「おお、カゲテル! 主役の登場には最高のタイミングだな!!」
汗と酒といい料理の匂い。
冒険者たちは戦いの勝利を肴に酒に酔っていた。
「カッちゃん! こっちこっちー! 主役は真ん中だよー!!」
メリダさんの周りには冒険者が数名転がっている……一緒に戦った人もいる。
他の街から来て知らなかったんだな……無謀な挑戦を行った犠牲者だろう。
「それでは改めて、蟻殲滅の功労者で、今回の大儲けの立役者……
スライムマスターァァァアアアアア!! カゲテルだぁ!!」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいですよ……」
「ふはははそのクラスで二つ名持ち、一生恥ずかしさに悶えるがいいさ!」
珍しく上機嫌なケラスさんに押しやられて挨拶をすることになってしまった。
「……只今暴風のケラス様にご紹介いただきましたカゲテルです。
まだDクラスのひよっこなので、皆様ご指導ご鞭撻をよろしくおねがいします」
「難しいこと言ってないで乾杯しろー!」
「はいはい、それでは皆様、お疲れさまでしたー!! かんぱーい!!」
うおおおおおおおお!!!
それからはもう、しっちゃかめっちゃかの大騒ぎ。
後で知ったんだけど、蟻退治って確かに大量の素材や魔石が手に入るけど、その後の捜索や素材の解体などで非常に手間がかかって実入りが悪く、本当に迷惑な現象らしい。
探索に解体をスライムが一手に引き受けて、ほぼすべての素材をきっちり手に入ったおかげで、普通のアリ退治ではありえないほど儲かったらしい。
今日の飲み会も全て冒険者ギルドの払いとなっている。
「暴風のケラス様、例の品は?」
「お前結構根に持つのな……ほらよ、俺の秘蔵だぜ!」
「ありがとうござ……ってちょっとしか残ってないじゃないですか!?」
「ふははは、景気よく行こうぜ!!」
「うう、楽しみにしていたのに……
でも、いい香り……いただきます……
おお、一口含むだけで口の中いっぱいに濃厚で甘みを感じる香りが……
酒精は強めですけど、それ以上に濃縮された旨味と呼んでもいい穀物の香り……
はぁ……最後につき上がる残り香が嗅覚までも楽しませてくれる。
間違いなく、一級品ですね」
周りの冒険者の喉がごくりとなった……
「な、なんなんだカッちゃん、メッチャクチャ飲みたくなったんだけど……」
メリダさんの瞳が血走っている。
『マスター、似せた酒を合成できますが、しますか?』
神の声に聞こえた。
「もちろん、GOだ! 樽で用意してくれ!」
『かしこまりました』
次の瞬間、目の前にどんと樽が現れた。
「カゲテル、なんだこれは?」
「ふっふっふ、さぁ、この香りを存分に味わってください!」
樽を開けると、先程の芳醇な香りが会場に開放された。
一口飲んで見る。
「確かに、よく似てますが、少しだけ重厚感が足りないけど……旨い!」
「俺にもよこせー!!」
「私にもだ!!」
「私が飲むのだー!!」
冒険者が群がってきた……みんな一口飲んで幸せそうな顔をしている。
「素晴らしい働きだよ軍師くん!」
『お役に立てて光栄です』
「あ、あのー、カゲテル……さんですよね……」
大騒ぎをしていると、つんつんと洋服を引っ張られた。
振り返ると、どこかで見た女性、少女、が立っていた。
記憶をたぐるとすぐに思いつく。
「あのときの……」
「はい、私と弟たちの命を救っていただき、ありがとうございました!!」
ローザとの、再会であった。
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