第18話 凱旋と超進化

 周囲の探索をして、蟻の殲滅を確認し街へと帰還する。

 スライムの力も上位の冒険者に知ってもらえたことは大きい。

 

「私も欲しい!!」


「俺もだ!」


 特にスライムボードと収納は羨ましがられた。

 超高級品の馬と同じぐらいの速度で移動できるんだから当然だ。

 収納自体は魔道具がまぁまぁ一般化しているので、Aクラスレベルの人だと持っていることは珍しくない。

 

「近距離で内部を共有できるんだぞ!

 めちゃくちゃ便利じゃねぇか!」


「スライムベッド……売って欲しい……」


「スライムをテイムしてもこんなに意思疎通できねーよ!」


「さすが天職」


 結局はそこに落ち着く。

 俺はもう、スライムと一緒に冒険者生活を送れているだけでありがたい。


「さて、今回の功労者文句なくカゲテルだ」


「異議なし!」


「ところでカゲテル、蟻達の死骸も回収したんだよな?」


「出しますか? とんでもない量ですけど……」


「革と魔石と蜜玉、酸袋以外は価値が無いから……ギルドとしては解体の費用のほうが……」


「分解して出します?」


「そんな事出来るのか?」


「むしろそれ以外の部分をスライムの餌にしていいならありがたいです」


「やっぱりスライム欲しい……」


 大量の蟻の身をゲット。

 これでまたスライムの数が増やせる。


 蟻の外殻は防具に利用出来るらしい、蜜玉は体内にある栄養素の塊で、高級な調味料に使われる。

 酸袋は、中身は道具や薬、袋自体は防具やマントになるそうだ。


「それとクイーンの素材と、あの腹部部分からロイヤルゼリーを手に入れました」


「回収していたのか! よくやった!」


 ロイヤルゼリー、アリの巣の最奥やクイーンアントの腹部、つまりクイーンアントと戦って手に入れなければいけないので非常に貴重な品。

 超高級品で、素晴らしい栄養価の塊で薬の材料にもなる。

 隠密部隊を少しだけ残して、こっそり回収しておいた。


 街の広場が各種素材で溢れそうになっている。

 支配人がそれぞれの冒険者に報酬を与えていく。

 俺は事前に殆どの報酬と引き替えに、クイーンアントの魔石を希望した。


「魔石の量も大事だけど、今回は質だ」


 森で交戦した蟻の魔石は回収した。

 大型種の魔石も一つもらっている。

 

「カゲテルにとってスライムの強化はそのまま戦力の増強、自由に使ってくれ」


 頭の大きさほどの魔石、スライムに取り込ませる。

 

「吸収だ」


 巨大な蟻達の長の命の結晶が、スライムに行き渡ることを感じる。


『スライムキングが誕生しました。

 ナイツオブスライムが誕生します。

 全てのスライムが進化します。

 グランドスライムへと進化しました。

 キングスライムの称号【王者】の影響で各スキルが統合最適化され共有されます。

 光スライムの個体が称号【軍師】を手に入れました。

 称号変化により、ウィズダムスライムに進化。

 全スライムの情報処理ならびに高速思考、並列思考がスライムマスターとリンクされます』


「な、なんか凄い変わった……」


 とっても頭の悪い感想が出た。


「マスター、蟻の身を一部保存食に変えて、一部を吸収してもよろしいですか?」


「ああ、いいよ」


「……今、……しゃべった?」


「どうかしましたか?」


 暴風のケラスさんが鳩に豆鉄砲でも食らったような顔をしている。

 いや、周りに居た冒険者が同じような顔してこっちを見ている。


「え、聞こえたんですか?」


 もう一人のカゲテルの声は俺にだけ聞こえてるのかと思ったんだけど。


「マスター、私の声は周囲の方にも聞こえます。

 問題があるなら思念伝達に切り替えますが、いかが致しますか?」


「んーそうだなぁ、内緒話ってわけでもないしなぁ……って、喋ってる!!!!???」


 肩に乗ったエメラルドスライム(集合体)が喋っている!!


「な、なんで喋ってるの!!」


『念の為に思念伝達でお答えします。

 称号獲得により私はウィズダムスライムへと進化しました。

 一般的なスライムよりも情報処理に特化しております。

 人間言語も習得いたしました。

 これからはマスターの補佐として、スライム全軍をスライムキングと同列の存在として管理します』


「……なんか、俺のスライム、喋れるみたいです」


 また頭の悪い言葉になってしまった。


 大騒ぎになったが、結局最後は、流石は天職だ……で落ち着いた。

 俺だってびっくりだ……


 ギルドによる蟻の革や魔石の算定も終わり、冒険者への報酬も与えられた。

 自分も追加で少量のロイヤルゼリーと蜜玉、酸袋をもらった。

 すでに蜜玉と酸袋は森で襲われた時に吸収していたけど、ちょっとカクテル作りと組み合わせたら面白い予感がしている。


「終わったかね暴風のケラス」


「その名前で呼ばないでもらおうか、鬼才の魔術師ケミカル。

 カゲテル、このあとの祝勝会まで、そこの錬金術ギルドの支配人に付き合ってやってくれ、今回の薬作りで無理させて借りを作ってしまった。

 後で秘蔵の酒を分けるから、すまない」


 秘蔵のお酒……ヨダレが出る。

 ……俺はいつからそんなに酒好きになったんだろう……酒スライムのせいか……


「さぁ、詳しい話を聞かせてもらおう!

 竜殺しの樹液の再現、蟻を殺す薬、全部話してくれ!!」


 この背が低いおじいさん、目がギラギラして、怖い……


『マスター、錬金術を間近で見るチャンスです。我慢してください』


 我が軍師の助言も有るので、俺は錬金術師ギルドへと向かうのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る