第14話 力(ちから)

 まるで壁だ。

 暗視の視界が蟻で埋められている。

 想像以上にやっかいに軍行動をしてくる。

 最も嫌な方向に分厚く蟻が移動してくる。

 スライムたちは分け過ぎると魔法で距離を取ることもできない。

 隙あれば吸ってこようとする蟻から逃しつつ、蟻を討てる俺が頑張るしかない。

 スライムの鍛えた剣はいとも容易く蟻を斬り裂いてくれる、数が、数が多い!


「くそっ! 俺と戦った相手はこんな気持ちか!!」


 進化していなければ、魔法をいくら駆使しても蟻からスライムを守りきれていない……

 炎の魔法で燃え盛る炎も、蟻たちは自分たちの体を使ってすぐに消し去ってしまう。

 

「くそ、キリがない……なんとか……!?」


 その時、残された村人を発見する。

 最悪の状態だ。

 剣を持つ人物が必死に守っているが、傷は深そうだ。

 そして、守っているのは、子供だ……

 襲っているのはゴブリン、この森にも集落を作っていたのか……

 このまま蟻に飲まれるだろうけど、その前に余計なことを……


「早く助けに、何か……何か……」


 必死にスライムのスキルで使えそうなものを考える。

 状態異常は無理だ、魔法も効果が薄い……

 何か、最近手に入れた……


【酒合成】


【風味混合】


 こんなスキルあったかな?

 この間の、竜殺しの樹液……

 メリダさんを潰すほどの酒、そもそも竜も酔わすらしいから……

 イメージすると大量の穀物を要求された。

 持ってけ持ってけ泥棒!!

 それに風味混合?

 酒と手持ちの道具を混ぜて味を細く調整できる……

 なんだよ、その……無駄……じゃないかも……

 少しだけ残しておいた除虫草、これと合成で作った竜殺しの樹液の原酒のカクテルを作成。

 スライムを集めて、周囲へ噴射する!!


「ピギッ!」


 周囲の蟻が今まで見たことがないほどビクンと震えて、ピタッと止まった。

 次の瞬間、びょんっと跳ね上がって逆さまになってビクンビクンと震えている。

 手足が伸びて、びくんと大きく震えると、そのまま動かなくなった。


「し、死んでる?」


 ここに、対蟻用最終兵器、カクテル名「蟻殺し」が生まれた。


「と、とにかく、助かった……い、いや! 急いで助けないと!

 みんなごめん、もう少しだけ頑張って!」


 独特の香りが周囲に広がっている、気配を探ると、明らかに蟻たちはこの匂いから距離をとっている。

 追われる可能性はない。

 すぐにスライムにのって森を移動する、すぐにでも駆けつけないと……

 剣を持った人物も、すでにまともな反撃ができずに、なんとかゴブリンとの間合いをとっている。


「時間を稼いでくれ!!」


 近くにいるスライムに火球や風の刃で援護をさせる。

 多少はこっちに意識を向けられたけど……


「いそげ、急げ!」


 森を必死に進む、枝が顔や体に当たる。

 スライムたちも、疲労している。

 必死に頑張ってくれているんだ!


「もう少しだ!」


 戦いの音が耳に入り、ゴブリンと戦っている人物を俺自身の視界にも捉える。

 しかし、次の瞬間、ゴブリンの突き出した槍が、その人物を突き刺した。


「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」


 必死にゴブリンとその人物の間に割り込む。

 素手で殴りつけたゴブリンの上半身が吹き飛んだ時、自分の異常な力に気がついた。

 しかし、今はそんなことよりこの人を救わなければ!


「大丈夫か!?」


 ゴブリンの槍が深々とその人物、少女の脇を貫いている。

 大量の鮮血がどぷんどぷんと拍動しながら傷口から溢れ出てくる。

 まずい、まずい、まずい、なんとか、なんとか……

 知識が湧き出てくる。

 このままだと失血死する。

 ゴブリンの武器は不潔だから感染症になる。

 位置的に脾臓と大動脈を損傷しているから大出血を起こしている。

 気がつけばスライムを体内に送り込み、周囲の組織を細菌と汚染組織ごと消化吸収し、損傷した臓器にスライムの体を貼り付けて、血管壁や損傷した臓器の代わりをさせる。

 その状態でゆっくりと治癒魔法を使って、ゆっくりと回復を促していく。

 医療的な知識はもう1人のカゲテルが、自分の作った世界で医者のロールプレイをしたときに得たものだ。

 まさかスライムを使ってそれを行うとは思っていなかったみたいだけど、もう1人の子供は、外部からの干渉だけで問題ない。

 スライムを巻きつけて包帯のようにして汚染物質を除去、その後回復魔法で自己治癒能力で治してもらう。

 その間に俺自身はスライムと協力して他のゴブリンを殲滅していく……

 そして、ようやく確信する。

 自分自身が、普通の力ではない力を奮っていることを……


『スライムマスターの効果によって、全てのスライムの能力を加算して自らの力になっています』


 一体一体のスライムは、弱い。

 しかし、全てのスライムの力が加算、つまり足されて俺の力に加えられている。

 成人男性の力を10、ゴブリンは8くらいだとして、スライムは進化しても3ってとこだ。

 ただ、3が一万匹いれば……3万だ……

 

「化け物じゃないか!!」


『高速演算によって、日常生活はフォローしています。スライムが』


 そうだったのか……早く言ってくれよ……


「ありがとう……」


 俺は、心の底からスライムたちに感謝をする。

 助けに来たみんなも、状態の安定を確認する。

 心置きなく、その場にいたゴブリンを皆殺しにする。

 森の探索は隅々まで終わった。

 村人を全て救えたわけではないが、救える範囲内の人物は全て救った。

 気絶している女性と子供2人を乗せて、俺は森から脱出する。

 自分自身に秘められた恐ろしい力。

 そして、不安要素はもうひとつある。

 治療のために使用したスライムが、この女性の内部でつながりが消失した気配がした。

 組織として吸収されたのか、一体何が起きているのか……


 今はとりあえず、少しでも早く蟻から距離を取って街へと帰ることを優先した。

 目眩がするほどの眠気を我慢しながら、俺は街へと急ぐのだった……

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