第13話 激突、蟻

「まずい、そっちに行っちゃ駄目だ!」


 月夜が照らす闇の中を俺は爆走している。

 しかし、監視しているスライムから来る映像に話しかけてもあちらには聞こえない。


「そっちはブラッドウルフがいる! くそ、足りるか……?」


 必死にスライムたちを集合させて、村人たちの補助に回っている。

 ブラッドウルフは群れをなす魔物で、その機動力は非常に高く、森の中で出会うと危険だ。

 木々を使った立体的で群れとしてコンビネーション攻撃をするので、非常に厄介だ。


「無理やりさらって、高速移動で逃げるにしても森から抜けないと……」


 流石に森の中を高速移動は危険すぎる。

 全身をスライムで包んで移動すれば多少は安全だけど……

 中で暴れられると困るから、無理やり行うのは難しい。


「今いる子達で対処するしか無いか……だったら……」


 ブラッドウルフと村人の間に、火魔法で火災を起こす。

 きな臭さを感じた村人はその匂いから逃れるように進路を変えてくれた。

 ウルフたちも火災の危険を感じて移動を開始している。

 もちろん大規模な山火事にするわけに行かないので、しばらくしたら消火する。


「い、忙しい……」


 森に迷い込んだ村人は複数グループいる。

 ゆっくりと動いているグループ、歩けなくて止まってしまっているグループ、それらを危険から守りながら移動……

 高速思考しながらでも知恵熱が出そうだ。

 眠いしね……

 背後からは蟻の先端が森に接し始めた。

 蟻たちはその強靭な顎で木々を倒し、粉々にして消化液によって食料に変えてしまう。

 出会った動物も容赦なく殺し、死体も同様に肉団子に変えてしまう。

 容赦なく根こそぎだ。


 数で負ける状況でいくらスキルがあっても蟻達にスライムは勝てない。

 蟻の強固な装甲は魔法が効きづらく、毒も痺れも溶解も効きにくい。

 単純な力で叩き潰したり切断して倒すしか無いけど、スライムは、弱いんだ!

 進化しても一体一体の力は子供くらい。

 そして、蟻は水分を吸う。

 これがスライムにとって最悪だ。

 天敵と言っても良い。

 スライムはいろんな形態の子がいるけど、基本的には水分なんだ……

 一番の弱点は、塩だったりする……

 打撃は比較的得意だけど、鋭い攻撃で細かくされてしまえば死んでしまう。

 蟻にストローのような口で吸われても死んでしまう。

 数の暴力で普通の魔物は安全な状態を作って、殲滅してきているけど、今回は……


「数で負けている……」


 とにかく、今の俺に出来るのは村人を助けて逃げることだ……


「よし、あの森だ!」


 すでに先行しているスライムたちにせっせと村人たちのいるところまで木を切り倒して空間を開けてもらっているので、スライムボードでそのまま突入する。

 前方にもスライムガードをつけて身をかがめて、出来る限り早く、急いでいく!!


「見えたぁ!!」


 村人が持つ松明の明かり、と、監視しているスライムの気配察知に急速に接近する気配。


「見つかったか!? 間に合え!!」


 村人に今まさに飛びかかろうとしている存在に、ボードから飛び降りて斬り伏せる。


「ギャン!!」


「キャーーー!!」


「大丈夫ですか!? 助けに来ました!!」


 次々と暗闇の中気配が飛びかかってくる。

 気配察知で把握している。

 村人は恐怖で目を伏せているので、この場にいる全スライムで一気に光魔法を発動する。

 単純に光るだけだけど、数十個の光源が突然発生して、暗闇に慣れていた魔物の目を煌々と照らす。


「キャウンキャウン!!」

 

 もんどり打ってオオカミ達はもがいている。

 失明しているか、しばらくは何も見えないだろう。


「移動します、驚くと思いますけど、時間がないんで我慢してください!!」


 スライム籠に村人を入れて、高速でこの場を離れて次の村人を回収する。

 倒したオオカミは回収したけど、戦っている暇はない。

 特に、動けなくなっている村人たちに、蟻たちが迫っている。


「キャー!! キャー!!」


「すみません、魔物がよってきちゃうので、頑張って静かにしてください!!」


 気持ちはわかるけど、こっちも必死なんだ!


 その後、有無を言わさず村人を拉致しながら、動けなくなっている集団の場所までたどり着く。


「冒険者ギルドから助けに来ました!

 天職スライムマスターのカゲテルです!

 皆さんを特殊なスライムが逃しますので、我慢してください!!」


 蟻達がメシメシと大木を砕く音が迫っている。

 すぐに村人を籠に詰めて森から脱出させる。


「くそっ気が付かれた!!」


 とうとう蟻に発見されてしまった。

 

「俺が食い止める、みんな早く避難させて!!」


 スライムの不安な気持ちが伝わってくるけど、避難に数を割く必要がある。


「そりゃあ!!」


 ガサガサと近寄ってきた蟻の首を落とす。

 すぐに捕食させたけど……


 ガササッ!!


 周囲の蟻が一斉にこちらを向く。

 

「失敗した……か」


 背中を冷たい汗が流れる。

 

 蟻を傷つけると、有る種のフェロモンが出てしまう。

 そして、そのフェロモンを感じた蟻は、凶暴化してしまう。

 斬りつけ、すぐに捕食することでフェロモンを出さずに倒したかった……


「風魔法!!」


 せめてフェロモンを広げないように風向きを操作する。

 冷静に考えれば、最初からやっておけばよかった……


 真っ赤な目をした蟻が数十体、カチカチカチと音を立てながらあっという間に俺を包囲する。


「なんとか、避難は成功させた……あとは、脱出するだけだ……」


 探索のスライムを呼び寄せるわけに行かない、まだ全域を捜索はしていない……

 今いる戦力で、戦うしか無い……


「ギシャー!!」


 周囲から消化液が浴びせられる。

 

「頼んだ!」


 すでに酸耐性をもつスライムはいる。

 膜状に変化して受け止めて、その下を走り抜け、一気に蟻に斬りつける。

 ガッと固い甲殻の感覚がするが、そのまま一刀両断に切り裂く。

 さすがはスライムが鍛えた剣だ!

 風によってフェロモンは広がることはない、すぐに捕食し、囲いを突破しようとするが、まだまだ敵の厚みが俺を包み込んでいる。


「やるしか無い!」


 俺は剣を構えて蟻に突撃する!

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