第12話 スライムマスターカゲテル

「カゲテル来てくれたか……どうした大丈夫か?」


「だ、大丈夫です」


 蟻の数と、その爪痕が目に入って、少し気分が悪くなった。

 そっと回復魔法をかけて、一旦視点を自分に戻す……


「状況が少しわかったが、思ったよりも悪い……

 西の山近くの村が2つ犠牲になった。

 避難しているだろう人々の消息も不明だ。

 カゲテル、君に生存者の探索を頼みたい……」


 たった一日で支配人の顔に疲労の色が見える。

 他のギルド職員もそうだった。

 どうやら、状況が思ったよりも悪いのと、現状悪くなっているのだろう……


「もうすぐ冬がくるというのに……西の村は大きめな穀倉地を……」


「牧場もあったよな……」


 ギルド職員のため息交じりの発言で、問題の深刻さが理解できる。

 それに、先程見た光景からも、もし逃げている人がいるなら一刻も早く保護しなければいけない。


「この周囲で一番大きな場所はここだ、ここが落ちれば……この周囲は壊滅するだろう。

 とにかく出来ることをどんどんやっていく、頼んだぞカゲテル。

 それと、緊急依頼を早くも対応してくれて感謝する。

 下でメリダに冒険証を更新してもらえ、異例ではあるが、君はそれだけの実績を果たした。

 おめでとうDクラスに昇進だよ」


「あ、ありがとうございます! 出来る限り早く見つけてきます!」


 支配人も、すでに日が暮れている状態での捜索依頼が無謀なことは理解している。

 それでも俺を信じて、最大限の評価をして依頼してくれた。

 俺は、全力でそれに答えたいと思う。


「ごめんね、無理ばっかり言って……」


「大丈夫ですメリダさん、俺のスライム、結構凄いんですよ!」


 全てのスライムを解放して、西の方向にローラー作戦を決行する。

 すでに日が沈んでいるが、関係ない、街を中心に扇状にスライムを走らせる。

 蟻たちは交代で休みを取りながら夜間も活動する……

 偵察隊に位置関係を把握してもらいながら、探索の網を広げていく。

 蟻は女王アリのいる巣穴から円状に広がっていく、獲物を追って円が崩れることも有るけど、ある程度以上離れると円へと戻っていく。

 逃げられている可能性も高い。

 巣穴から遠くなるほど円が広がる速度は落ちる。

 さらに西側の巨大な山脈は人も蟻も超えるのは難しいだろうから、逃げられる方向は限定される。

 西側北側は巨大な山脈で覆われるような地理になっているから、東か南に逃げるしか無い。

 南は森が多くて開拓もされていないから、街へ向かって東へ進む可能性が高いと思う。

 スライムの配置はそちらを厚くする。


「見つけた!!」


 疲れた表情でこの夜道を歩いている。

 現在地から少し北にそれている。

 でも予想通り街へのルートを通っている。

 けが人も多く、それでも少しでも蟻たちから距離を取らなければいけない、その恐怖が村人たちを歩かせているんだろう……


「すぐに向かおう!」


 スライムボード全速力だ!


「だ、誰だ!!」


 少し離れた場所からボードからおりて走って近づく。

 俺の姿を認めた村人たちが警戒する。


「安心してください、ラーケンの街から依頼を受けた冒険者で、皆さんを保護しに来ました!」


 冒険者証を提示すると、明らかに村人たちに安堵の空気が流れる。


「蟻たちとは少し距離が離れています。

 休憩してください、食料と、治療薬の準備があります。

 私は天・職・持・ち・の・す、す、ス・ラ・イ・ム・マ・ス・タ・ー・です。

 周囲の警戒は私・の・特・殊・な・ス・ラ・イ・ム・がしっかりと行います!」


 メリダさんや支配人に言われた俺の呼び名。

 この世界の天職という響きは影響力が強い。

 それにスライムであっても、天職の使うスライムということにしておけば、侮られる事はないだろう、って……


「て、天職持ちが助けに来てくれたのか……」


「そうか、天職にかかればスライムもすごい力を発揮するんだな……」


 弱っていたところに助けの手を差し伸べられたのもあり、なんとか受け入れてもらえた。

 スライムたちが出す様々な物資を見ると、すぐに尊敬にも似た視線を向けられる。

 治療薬とこっそり回復魔法を併用してけが人の処置も行っていく。

 子供やお年よりもいて、皆疲れ切っていた。

 その場に組み立て式の家を作り上げると、それはもう驚かれたが、その頃にはすっかりスライムも受け入れてもらえて、子どもたちは喜んでスライムベッドで眠りについた。

 スライムベッドとはマット状に変化したスライムのことで、ほのかに暖かく、適度に柔らかく、極上の寝心地を約束する。問題点は、普通のベッドで寝ることが苦痛になってしまうことだ。

 回復魔法もかけて一晩眠れば、明日にはみんな元気いっぱいになるだろう。

 スライムによる探索は続けていたが、悪い予感があたってしまう。

 一部の村人たちは、魔物が存在する森へと逃げ込んでしまい、逃げる速度が上がらない。

 蟻たちとの距離があまり広げられず、疲労によって進めなくなっている。


「申し訳ない、他の人々が危険なので、護衛のスライムを置いていきます。

 日が出たらこのままラーケンの街へ向かってください!」


「あ、ああ……すまない……本当に助かったよ」


 眠っていたまとめ役の人を起こして、事情を伝えて俺は南へと急ぐ。

 背後の蟻だけじゃない、森には危険な魔物も存在する。


「急げ、急げ!」


 月夜の下、スライムに乗った俺はただただ急ぐことしか出来なかった……

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