第11話 \蟻だー!/
ラーケンの街での生活は、俺にとっては本当に天国のようだった。
依頼を達成すればきちんとした、生活にも十分足りる報酬を得られるし、依頼によっては感謝までされる。順調に依頼をこなすために評判も上がっていく。
今では俺もスライムも街を歩けば親しげに声をかけてくれるようになった。
ギルドの中での立場としても、まだEクラスでは有るものの、探索、索敵に関しては一目置かれるようになってきた。
スライムの数に任せた隠密探索は人間の比じゃない。
その一方で、少しだけ問題が出てきた。
「暇だなぁーカゲ」
「そうですねーバグラスさんが得意な荒事系の依頼は……」
周囲の魔物や危険な動物を餌確保のために定期的に間引いているので、良いことなんだけど、冒険者にとっては依頼の減少に繋がってしまっている。
「こんな辺境には魔王軍も来ねーし、ダンジョンでも出来ねーかなー!」
現在、スライムの一部を周囲の探索に放っている。
未発見のダンジョン……すでに見つけています。
様子見でスライムを潜らせていて、マップも製作中だ。
敵の強さ的にランクCくらいはありそうなダンジョンだ。
ランクはそのまま冒険者クラスのパーティで攻略が望ましい、俺が勝手につけたランクだから、それほど意味はないと思うけど、魔物にもランク付けがあるので、そんなに大きくハズレては無いと思う。
ダンジョンとは魔物を無限に生み出す恐ろしい場所で、同時に冒険者にとっては夢が詰まっている。ダンジョンの最奥にはダンジョンを守る魔物がいて、そのボスを倒せれば非常に素晴らしい宝を得ることが出来る。
素晴らしい武具や今の我々では作れないような魔道具などを手に入れれば、一気に大金持ちになる。
その代わり死と隣合わせで、そういった人間をおびき寄せてダンジョンが食べるために、餌として宝が出ると考えられている。
もうひとつ、魔王軍……
北の世界の果てと呼ばれる極寒の島を本拠地にしている魔人達の軍だ。
魔人は圧倒的な力を持つ、高い知性を持っているし、魔獣を従えている事もある。
基本的には魔王島に引きこもっているんだけど、遊び感覚で出てきて人間の都市を襲ったりする厄介な存在だ。人間はおもちゃか何かと考えているのか、慈悲はない。らしい。
Sクラス冒険者以外は、見つけたら死ぬ気で逃げろ。それだけを考えろと教えられる。
「魔王は無理でもダンジョンは、まだまだ未開の場所もありますし、探索するのも手ですね!」
「そういやカゲは探索、捜索得意だろ?
探そうぜ!」
「依頼ですかー?」
「……つめてーなーカゲは、いつも飯おごってやってるだろー!」
「ははは、今度採取に行った時にスライムに頼んでみますよ」
「よーし、なら見つけたときのために……」
「鍛錬ですか?」
「前祝いで飲みに行くぞ!!」
「だから採取に行くって……」
「た、大変だ!!」
突然ギルドの扉が乱暴に開けられ、人が飛び込んできた。
この街の冒険者であるステムさんだ、ひどく怯えた表情をしている。
「なんだ、ステムそんなに慌てて……ほんとに魔人でも現れたかー?」
「に、西の山から、蟻が溢れた!!」
「なんだと!?」
ギルド職員も含めて大騒ぎになる。
蟻、昆虫系魔物の一種で、大変危険な魔物とされている。
非常に強力な消化液と鋭い顎で植物も動物も練り餌にされてしまう。
そしてその大量の食料で爆発的に増える。
巣を地中に作ると発見されず、とんでもない数が突然溢れることが有る。
巣を中心に円形に群れが広がり、草一本生えない荒れ地へと変えてしまう。
もちろんその範囲に人里が有れば、なにもかも飲み込んでしまう。
「すぐに他のギルドへ連絡だ!!」
「動ける冒険者は緊急招集しろ!」
「Aクラス以上はいるか? 女王討伐隊を早く組まないと!!」
「ステム、詳しい情報を裏で聞くぞ。
カゲテル、ギルドからの緊急依頼だ、除虫草の採取をお願いする。
量は有れば有るだけ、ひと束銀貨5枚出す!」
支配人も忙しそうに次々と指示を飛ばしている。
「わかりました」
西方向に偵察に出しているスライムはまだ山までは到達していない、警戒のために残しておくが、多方面に展開していたスライムは一旦帰還させ、周囲の森での採取を指示する。
除虫草は虫除けの原材料になる植物だ。
嫌がらせ程度にしかならないが、蟻も嫌がって少しだけ進行速度を落とせる。
日常でも便利なので常に需要があって、いくつか群生地を押さえてある。
根こそぎ取るわけにも行かないけど、集められるだけ集めないと……
すぐにギルドを後にしてスライムボードで各地の森をめぐりスライムと除虫草を回収する。
スライムボードは板状にしたスライムに乗って高速移動できるようにした。
結構快適で高速移動できるので非常に便利だ。
すでにスライムが形態変化が出来ることと、複数のスライムを使っていることはみんな知っている。こういう採取で信頼されているのも、日々のスライムの働きのおかげだ。
「ああ、カゲテル君、支配人が呼んでいるから上に行ってもらえる?」
「わかりました、あと除虫草置いときます」
「置いとくってどこ……こ、これ全部!?」
「薬草とかも集めておきました! 袋ごとに分けてあります!」
「ありがとう!! よし、すぐに錬金術ギルドへ運ぶぞ!」
ギルドの二階へ上がり、一番奥の支配人の扉を開ける。
同時に西へ送った斥候部隊が、惨劇の様子を捉えたのだった……
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