第9話 未成年飲酒は絶対に駄目です
「見慣れると結構かわいいわよねスライム、あ、すみませ~んお代わりください」
「そうなんですよね、愛着が湧いてきます」
「カゲテル君氷お願い氷」
「あ、はい」
持ってこられたお代わりのワインに氷を魔法で作って落とす。
先程から何度もこの光景が繰り返されている。
自分の水がぬるくなってきてたので、こっそりやっているのを発見して、それからは毎回やらされている。
「いやー、氷入りのワインなんて良いもの飲めて、幸せだなぁ!」
喋りながら食べながら飲んでいる。
ずーーーっと同じペースで止まることがない。
店員さんが俺のおごりって言った時にメリダさんと俺の顔を交互に見ながら、すごい心配した顔をしていた理由がわかった……
メリダさんは、早食いで、大食いで、大酒飲みだ。
「ねぇねぇ、ほんとに飲まないの?
冒険者で年齢守ってるなんていないよ?」
「いや、一応18からですから、あと2年ちょっとは……」
「まーじめーだなーカゲテルはー!
すみませーん!! お代わりくださいー!!」
「おー、すげーのがいると思ったらメリダか、それに、スライムルーキー!
活躍してるらしーじゃねーか!」
ここは冒険者が集う酒場、当然客も冒険者だらけだ。
「が、頑張ってます!」
「なんだ、お前水飲んでるんか?
俺がおごってやる、飲め飲め!」
店員が運んできた自分用の酒を俺に持たせてくれた。
さすがにこれは断れない。
「い、いただきます」
初めてのお酒、この酒場で酒と言ったら赤ワインだ。
ぶどうの風味が荒々しいが……冷たくて……
「美味しい……」
「おっ! いける口か!!
よっしゃ! 樽でくれ樽で!
最近活躍のルーキーにおごりてぇ奴は一口乗れや!」
「おお、じゃあ俺も乗るぞ!」
「あ、え、その……」
「良いの良いの、これも通過儀礼みたいなものよ!
やらしときなさい!!
あ、私もお代わりくださいー!
みんなーこの子、魔法使えるのよー!
氷だして、ほら、氷!!」
「は、はい!」
「凄いのよースライムちゃんも出せるのよー!」
「はーーー! すげーなスライムってのは……」
「なにぃ!? スライムが魔法使うだとー?」
気がつけば、俺たちを中心に酒場にいるみんなで大騒ぎをすることになってしまった……
次々と運ばれる料理と酒、色んな人にもみくちゃにされる俺とスライム。
でも、ものすごく楽しい!!
「よっしゃルーキー腕試ししてやる! やろうぜ!」
そして唐突に腕相撲大会が始まってしまった!
何箇所かで同じように始まって、賭けの対象にもなり始める。
「さぁさぁ、ルーキーとバグラスの勝負!! 賭けた賭けた!
おかわりくださーい!」
メリダさんギルド職員がそれで良いのですか!?
バグラスさんの分厚い手、これは勝てるはずもない。
「なーんだ、カゲちゃん人気無いなぁ!
よっしゃ、おねーさんが一口賭けてあげるから負けんじゃないわよー!
あーもう、樽で頂戴樽で! スライムちゃーん氷ちょうだーい氷ー!」
「みんないいかーレディーーーーゴーーー!!」
「フンッ!! ……ぬぎぎぎぎ……んんん!!」
目の前でバグラスさんが顔を真赤にしている。
でも、それほど力は入ってない。
なるほど、そういう事か……
「ううん、ぬううう、えーい!」
適度に押されたふりして一気に倒す。
「勝者! カゲちゃーーーん!
バグラスー腕なまったんじゃないのー!!
きゃーーー大儲けよぉ!! よっしゃ、肉もってこい肉ー!!
いい熊肉入ったの知ってんだよこっちは!」
「ちょ、ちょっとメリダさん!!」
「あ、ああははははは、お代わり、おかわりくださーい!!」
「やるじゃねーかルーキー!! 俺が相手だ!!」
結局、みんなと腕相撲をすることになったけど、どうやら花をもたせてくれるらしく、みんな手加減をしてくれた。
その後大儲けしたメリダさんが負けた人たちに酒を飲ませて、もう、大混乱になった。
「かーっ、見た目と違ってつえーじゃねーかルーキー!!
だがな、飲みでは負けねーぞ!!」
バグラスさんが今度はでっかいジョッキを2つ持ってきた。
「なになになに、あたしを差し置いて飲み比べやってんの?」
「メリダに飲ませたら酒がもったいねぇ!」
「俺もやるぞ!」
「俺もだ、酒ではルーキーには負けねぇぞ!!」
みんな優しいなぁ、わざと負けてくれたのに……
ただ、お酒、どうやら毒判定で、俺、毒無効だから……
結果、店中の酒を平らげて、最後に俺とメリダさんだけになった。
他の冒険者達はみんな床で寝てるか外で寝ている。
「すっごいじゃない! かっちゃん!!
でもねーーー、私には勝てないわよー!!
店長、アレだして、アレ!」
「なんですかアレって?」
「ふっふっふ……」
店員が鼻をつまみながらグラスを2つ持ってくる。
ものすごい匂いがする。
「これはねぇ、一滴であの樽いっぱいの酒が造れる、竜殺しの木の樹液。
それの原液よ!! 効くわよー!
さぁ、勝負よ!」
店員さんが止めとけって顔をしているんだけど、なぜかちょっと興味が湧いている。
きっとさっき声が聞こえた酒スライムへの変化の影響かもしれない。
「くわんぱーーーーーーい!!」
カツンとグラスを合わせると、メリダさんは一気に飲み干した。
俺も真似して飲み干す。
「おお、喉が熱い。香りだけだとただ強いだけの物に感じるけど、実際には重厚な香りが分厚く折り重なったような、味わいも濃縮されて、おお、お腹が、どこを通っているかわかるほどですね。ああ、上がってくる香りもまた濃厚で……」
「ぐはっ、なんで、平気なのよかっちゃん! も、もう一杯よ!!
まけらいんだららー!!」
二杯目が持ってこられる。
次もぐいっと開ける。
「ああ、二杯目になるとまた違う顔を見せてくれました。
なるほど、確かに水で薄めてこの香りを華やかに楽しむのが正しい楽しみ方かもしれません。
しかし、このまま直接飲むことで、樹液自体の本来持つ味わいを感じる事ができるこの飲み方は贅沢だ……うん、美味しいです!」
「にゃ、なんて……子なのよ……」
どたん……メリダさんはテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
「お、お前すごいな……メリダに飲み勝つ人間なんているのか……
帰っていいぞ、お代と後始末は慣れてるから。
あーあ、明日の昼まで大変だぞこれ……」
「あ、あのメリダさんの分だけでも……」
「だめだ、全くメリダも、最後の酒な、一杯金貨5枚だ。
そんなもん後輩にたかるんじゃないっての」
「も、もし足りなかったら言ってください」
「ははは、心配するな。コイツラはこうやって大騒ぎするために金稼いでんだ。
うちも大儲けで助かったよ。
またやってくれ!」
こうして、店員さんのご厚意で一人宿に帰って眠るのだった。
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