第8話 冒険者生活
なんか、いつの間にか【鑑定】とかいうスキルを手に入れていた。
これが便利で、森に籠もって毒キノコが一発で分かる。
今まではスライムに食べさせて確かめていたけど、その過程で毒スライムとか麻痺スライムとかに変化したりして、毒はないけどすごくまずかったり……
でも、この【鑑定】があると毒は無いとか味はうまいとかわかる。
勉強によってこのスキルのことも詳しくわかった。
人間も結構スキルを持っている人はいるようだ。
天職ほどじゃないけど、スキルを持つ人間は無条件で強いらしい。
俺……スライムのおかげでかなり強くなっている。
ガウさんが熱を出したあの現象は、何らかのスキルが後天的に発生して、それが強大な力を持っているものだとなる症状に似ていた。
俺はスキルを借りているからそういう変化は起きないんだろうね。
「……この洞穴……マッドベアの巣だ……ようやく見つけた」
ガウさんとの戦闘訓練のおかげで、俺も戦えるようになった。
怖いけど、あんなすごい人とやりあっていたことに比べたら、大抵の魔物は大したことはない。
スライムからスキルを借りているだけじゃなくて、俺自身も鍛えないとね。
「……流石に、マッドベアは注意しないとな」
隠密スライムの目には真っ暗な洞窟で眠る熊の姿が映っている。
マッドベアは非常に凶暴で食欲も旺盛。
動物も魔物も人間もマッドベアの前では等しく食料という恐ろしい魔物だ。
「いざとなったらスライムに頼ればいいし……」
相棒たちもお互いのスキルを利用することによって本当に頼りになる。
そもそも数がすごい、俺の戦いに死角はない。
敵の動きはこちらに丸見えで、さらに思考加速化で戦えるのだから、よほどのことがなければ負けることはない。
「思考加速を持った敵には注意しないと」
ガウさんはたぶんあの時スキルに目覚めて、思考加速を手に入れたんだ。
相手と同じ土俵だと、俺はまだまだ弱い。
この借り物の力で、なんとか成長していかないと……
「よし、やろう!」
俺の思念で洞窟内のスライムがマッドベアに土の槍を突き刺す。
スライムが槍を持っている姿は、ちょっとかわいい。
「グゴオオオオオォォォォ!!」
睡眠を邪魔されたマッドベアは怒り狂ってスライムを追って出てくる。
でかい!
洞窟の外に居た俺の姿を見つけると、その腕を振り回してくる。
丸太のような腕に鋭い爪、引っ掛けられるだけでも致命傷だろう。
大丈夫だ、戦えている。
「ガアァァァ!!」
一向に倒せない事実に苛立っているマッドベアを、予定の位置まで誘導していく。
「よしっ! せりゃ!!」
すれ違うように足元をくぐり抜けて斬りつける!
スライムの作った剣は、見事な切れ味でマッドベアの強靭な毛皮と皮下脂肪を切り裂き大量の出血が地面に落ちる。
「今だ!」
そして、その地面が一瞬で消失する。
スライムが擬態して作った地面だ。
その下には大穴が空いており、麻痺スライムの吐き出す毒が溜まっている。
「グガァ……ガ……グ……」
少しもがいたけど、傷からも口からも麻痺毒が入り込んで完全に麻痺している。
わざわざこんな方法をとったのには理由がある。
「はい、こっちに置いてー」
完全に麻痺して痙攣している熊に手を合わせ、お腹を開く。
肝臓のそばにある小さな袋、熊の胆嚢。
生きているマッドベアの胆嚢の中には非常に貴重な薬の材料が入っている。
死んでしまうとすぐに毒が混ざって駄目になってしまうために、余計に貴重品になっている。
素早く切除し、丁寧に処置をして収納する。
それが終わったら止めをさす。
マッドベアは動物なので魔石はないが、その毛皮や肉は貴重品だ。
内臓には死後毒が出るので全てその場で燃やしてしまう。
革は丁寧に剥いで収納、肉も切り分けて収納、骨や牙、爪も収納する。
スライムがいれば汚れは綺麗に取り除けるし、解体作業もとても楽だ。
全部任せても見事にさばいてくれるけど、自分も冒険者として学んだことを実際にやりたい。
道具が良いしスライムのおかげで俺の解体は評判がいい。
スライムたちには初めて倒したものは少しずつ与えている。
いろんなスライムに変化するから楽しい。
切り出したお肉を美味しそうに消化している。
「保存のスキルが良いんだろうね」
新鮮な状態のまま収納できるために、肉の味がまるで違うと大好評だ。
「これが……白金貨……」
胆嚢は目玉が飛び出るような値段がつけられた。
「ありがとう、本当にありがとう! これで娘が助かる! 本当にありがとう!!」
魂魄食いと呼ばれる恐ろしい病気の特効薬の素材であるマッドベアの胆嚢。
幼い子供が本当に稀にかかり、どんどんと生気を失って、その薬以外は何も効かない、必ず死亡する恐ろしい病気だ。
今回は不幸にも大商会の若頭であるマーケットさんの娘さんがその病気にかかり、冒険者ギルドに依頼が入っていた。
マッドベアを狩れるほどの、胆嚢をきちんと取れるほどのパーティがいなかった。
この病気は進行がものすごく早いために、なんとかして手に入れなければいけなかった。
そもそもマッドベアを見つけるところから始めなければいけない。
危険な森の中をマッドベアを見つけるだけでも普通は数週間かかる。
そんな絶望的な話をギルドに居る時に耳にしてしまった。
泣きながら職員に依頼を出すマーケットさんの悲痛な叫び、俺は、すぐにギルドを飛び出して、周囲の森に探索隊を派遣し、マッドベアを見つけた。
そして、今に至る。
「一刻も早く娘さんを助けてあげてください!」
「わかった、ありがとうありがとう!」
何度も頭を下げながらマーケットさんがギルドを後にする。
「ふぅ、もう、なんか、驚くのに疲れちゃった……」
メリダさんにため息を吐かれてしまった。
俺のクラスでは受けられない依頼を秘密裏に処理してもらう片棒を担いでもらった。
「白金貨……私も初めて見たわ……」
銀でも金でも無い不思議な輝き、これ一枚で金貨100枚に相当する。
「数年遊んで暮らせるわね……」
「あの、これ孤児教会に寄付していいですか?」
「え!? 本気で言ってるの? 白金貨だよ!?」
「いや、自分がこんな物持ってても使えませんし、そもそもルール違反で手に入れてるわけですし」
「うう……そうだよねぇ……主任は人助けだからって許してもらえたけど、他の冒険者には秘密にしないといけないし……」
「大丈夫ですよ、皮と肉で十分なお金になりました!
無理を聞いてもらったから今日はおごりますよ!」
「ほんと!? やったぁ、給料日前で厳しかったんだぁ!」
「じゃあ寄付の件お願いしますね」
「名前はどうする?」
「匿名でいいです」
「うん、わかった。じゃあ終わったら冒険者の酒場で!」
「わかりました」
メリダさんは最初こそちょっと冷たかったけど、実はちょっと抜けていて、いろいろと目をかけてくれている。
最初はユキムラさんに言われたからだろうけど、いくつか依頼をこなしていく上で見直してくれたらしい。
メリダさんのおかげで俺がスライムを連れていても馬鹿にしてくる冒険者は居なくなった。
しかし、俺はメリダさんの事を何も知っていなかった……
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