第7話 ガウ
「カゲテル! 講義は終わったな! 行くぞ!」
「カゲテル! 飯食ったな! 行くぞ!」
「カゲテル! 行くぞ!」
冒険者見習い、上等クラスになってから。
毎日、少しでも時間が有るとガウさんが俺を呼びに来ることが習慣になった……
「ま、また、明日な……」
そして、ボロボロになって帰っていく。
寸止めにしようとしたら……
「それじゃだめだ! マジで来てくれ!
俺の本能を掻き立ててくれ!!」
ちょっと力を込めたら、ガウさんの勢いが凄いから一撃で気絶してしまい。
今では、かなり強い打撃だけど、なんとかその後も継続してやり合えるぐらいの一撃。で反撃するようになった。
俺は思考加速というスライムの力を借りているからガウさんと戦えているけど、本当の一流の冒険者は凄い。
数度の立ち合いからいろんなフェイントを織り交ぜて、一撃で終わらなくなった。
ガウさん本人曰く、野生の勘ってやつで、こちらの行動の先回りをしてくる。
ただ思考加速状態だと、やってきたことに対応できてしまうので、少しずつ相手の手段を減らして打ち倒すという流れにはなる。
段々とその過程が長くなっていっている。
誰もガウさんと訓練している会場に入れないようにしているせいで、周りからは、毎日猛烈なしごきを受けているのになぜかガウがボロボロになっている。何者だアイツは? と変な目で見られるようになった……
軽蔑の目線よりはいいけど、奇異の目で見られるのもなぁ……
そんな日が続いて、冒険者としての心得や世界の事をたくさん知れたことは本当に良かった。
そして、ガウさんとの日常にも大きな変化が訪れた。
いつものようにガウさんが飛び込んでくる。
あまり通用しなくなってきたけど、スライムを足元に送り込む。
ガッ!
今まで一度もなかった、槍でスライムの動きを事前に押さえてきた。
慌てて俺は剣を振るって槍がない側へ攻撃を加えようとする。
しかし、ガウさんは明らかに剣の攻撃を見てから槍を振り上げ攻撃を防ぐ、突然の事に、俺の頭はパニックになってしまって、スライムに体当たりをさせ、距離を取ろうとした……
やっぱり見えている、最小限の動きで体当たりをさばき、苦し紛れの俺の一撃を払い落とし、首元にやり先を当てられた……
「……こういう世界にいたのか……」
にやりとガウさんが笑った。
「初めて一本とったな。そして、俺は、新しい世界の……扉を……」
ガウさんはそのまま満足そうな笑顔を浮かべ大の字で倒れてしまった。
後でメリダさんから聞いたら、3日熱を出して寝込んで、目覚めたと思ったらギルド職員を辞めてユキムラさんを追って旅に出た。
ガウさんからもらった手紙には、
『世話になった。また会おう!』
とだけ書かれていた。
「全く本当に自分勝手なんだから……でもカゲテル君、よく頑張ったね。
今日からEクラス冒険者よ。本当はもっと前になれたんだけど、ガウが止めててね……
アイツには修行の相手をしてもらわなければーって……そして、その日数分の日当。
これはガウが押し付けていったから、もらっちゃいなさい」
革袋の中には金貨が5枚入っていた。
「こ、こんな大金!」
「まぁ、数ヶ月遅らせたんだし、それにガウの修行に付き合ったんだから、いいのいいの」
「は、はい……」
ガウさん、大切に使わせてもらいます。
「それにしても、カゲテル君、貴方何者なの?」
「え、いや、普通の冒険者、見習い?」
「そんなわけないじゃない、あのガウが手も足も出ないなんて、S級冒険者くらいよ?」
「実は、スライムが凄いスキルを持ってて、それを借りてる感じで……」
「え、その子そんな凄い子なの?」
「は、はい。実は、魔法も使えたりしちゃったりして……」
「え? スライムよね?」
「はい、スライムなんですけど、結構凄いんです」
「はー……天職は伊達じゃないってことなのね……
ちょっと他のギルドにもこの話していい?
たぶんスライム連れていると、悪いんだけど最初みたいな扱いを受けちゃうと思うの」
メリダさんが小声になる。
「ほらね、これ以上冒険者ギルドがユキムラ様に目をつけられるわけにも行かないから……」
「ああ、この子が凄いって知ってもらえるなら、俺は大丈夫です」
「ありがと、それとなく凄いスライム使いがいるって流しとくわ。
じゃあ、今日から本当の冒険者ね! 頑張って! まずは宿代を稼ぐのよ新人君!」
「はい!」
Eクラスになると冒険者に貸し出している宿舎をでなければいけない。
無料の食事も無いので、自分の生活費を自分で稼がなければいけない。
金貨5枚は使わずに取っておこう。
冒険者らしく、依頼をこなして生活していくんだ。
メリダさんと別れて、依頼案内掲示板を眺める。
Eクラスになるとクラスほやほやだから、あまり危険な依頼は受けられない。
結局ガウさんとの特別訓練ってことになってる戦闘訓練で上等クラスを終えたので、初クエストだ!
「あ、これなら持ってるな」
いくつかの薬草やハーブの採取クエストはすでに素材を持っている。
これで合わせて銀貨8枚。
宿代と飯代にはなった。
この世界には貨幣が有る。
銅、鉄、銀、金、白金、大白金。
それぞれ100枚で上の硬貨と同価値だ。
大昔の魔道具で作られていて、複製できないって凄いものだったりする。
装置はオークラ国にあるけど、自由に作れるわけではないらしい……あまり詳しくはわかってない。
とにかく、どこの国でもこの世界であればこの硬貨で支払が出来る。
この街の宿一泊は部屋だと銀貨4枚、馬小屋で1枚だ。
外食するなら銀貨1枚で腹いっぱい食べられる。
まだ薬草もハーブもストックは有るから、しばらくは問題ない。
「まぁ、森で暮らしても良いんだけどね……」
組み立て式の家も有るし、なんといってもスライムたちのいる生活のほうが、よほどいい宿でなければ快適なんだよね……
依頼を報告し、報酬を得る。
受け取った銀貨を握りしめる。
「これで、おれも冒険者だ……!」
初めて自分で依頼を達成して報酬を得た。
そのお金の重みが、心地よかった。
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