第6話 テスト
半ば引きずられるように個室へと運ばれる。
他の冒険者達はすっかり萎縮して目を合わせてこない……
あの人、ユキムラさんは、きっとすごい人なんだろう……
『ハイ癒スライムに変化しました。
【回復魔法】【瞑想】【幸運】』
その途中で例の声が聞こえた。
「も、申し訳ございませんでした!!」
部屋に入るなりこれ以上無いくらい頭を下げられた……
「い、いや、だ、大丈夫なんで、その、頭を上げてください」
「本当に!? 怒ってない!?
ユキムラ様に睨まれたら生きていけないわ、ごめんね、本当にごめんね!」
「ゆ、ユキムラ様って、すごい人なんですか?」
「貴方知らないの!? って、そうよね小さな村から来たって……ああ、これ直さないとまた怒られちゃう……あ、えっとごめんね。ユキムラ様は、冒険者として最高の位である特S級冒険者だし、それに留まらず多くの国から勲章をもらっていたり、あの人の言葉一つで動く国だってあるし、それなのにイチ冒険者として日々小さな依頼からダンジョン探索まで、冒険者らしい生き方をなさっている伝説級の方なのよ……ああ、そんな人にこんな形で名前を覚えられてしまったなんて……」
「あ、ありがとうございます……」
「あ、あと冒険者の説明ね、しっかりとお話させていただくわ!」
それからメリダさんは丁寧に冒険者ギルドの仕組みを説明してくれた。
冒険者にはその実力に合わせて段階分けがされている。
初心者ルーキークラス
初等ベイビークラス
中等ミドルクラス
上等ハイクラス
Eクラス
Dクラス
Cクラス
Bクラス
Aクラス
Sクラス
そして、例外的存在の特Sクラス。
言ってみればEクラスに入るまでは教育課程みたいなもので、討伐などの危険が伴う依頼はE以上の冒険者がついていないと受けられない事になっている。
そして……
「今から貴方の実力を見せてもらって、Eまでのどのクラスになるかを見させてもらうわ」
と、言うことで。
テストを受けることになった。
戦えるのかという実力を図るテストなので、ギルド職員、元冒険者の人との模擬戦になる。
試験会場はギルドの裏にある稽古場、ギルドに所属するものであれば届け出を出せば自由に使えるし、職員から有料では有るが師事を受けることも出来る。
ギルド職員は元高位の冒険者も少なくないために、無料の講習なんかもやっている。
こういった活動はギルドの大事な役割で、新人冒険者などが無謀な行動をとって死んでしまったり大怪我を負うことを防いでいる。
「ユキムラが目をつけたっていう新人か!
スライム使い! 天職なんだから俺は油断しねーぞ!!」
「止めなさいガウ!! 貴方の態度でユキムラ様が怒ったら私まで困るのよ!!」
「何いってんだ! 油断しねーぞ! って言ってんだぞ俺は!!」
「あ、ありがとうございます!!」
「ごめんねカゲテル君! あいつ馬鹿なの!
でも、ちゃんと強いし手加減も出来る……はずだから!」
「手加減なんてしねーよ!
新人! 本気でかかってこーい!!
そっちの相棒のちっこいのも見逃さねーからな!!」
スライムにどーんと指を突き出す。
確かに、馬鹿にしている感じはしない。
ちゃんと俺たちと向き合ってくれている。
「は、はい!!」
とりあえず、剣を持っていたから木剣を選んでみた。
ガウさんは短槍だ。
短く刈り込まれた赤い髪、鋭い眼光、それに、ムッキムキの身体……
どうしてこの人が元冒険者なんだろう?
「おい、お前今、なんでこの人が元冒険者なんだろう? って思ったろ?」
「う、うへぇ……す、すみません!!」
「まぁ、終わったら教えてやるよ、それじゃあ、始めるぜ……!」
ガウさんの姿が一気に大きくなる。
まっすぐと突っ込んできて短槍を引き、突き出して来る……
突き出して……
突き出して……来ない?
いや、ゆっくりと突き出してくる?
ああ、思考加速状態だこれ。
だったらゆっくり相手を観察して……
もうすぐ踏み込む足の下にスライムを滑り込ませて……
案の定体勢が崩れたので、槍を掴んで引き込んで倒し、首元に剣を添える。
「……はっ!! そ、それまで!!」
「……今、何をされた……?」
「あ、は、はい。
その、足元にスライムを行かせて、体勢を崩して、そのまま倒させてもらいました……」
「そうか……いや、俺の負けなんだが、いや、言い訳だな……。
ふむ、魔物使い、テイマーとして従魔の使い方もよく理解しているし、十分に戦えるだろ!
ただ、少し常識が薄いことを考えて、上級クラスから冒険者としての知識を蓄えろ!
お前ならすぐEクラス、いや、結構いいとこまで行けると思うぞ!!」
差し伸べた手をガッと握り立ち上がるガウさん。
俺よりも何倍も大きな身体、でも、見下される瞳に侮蔑の色は感じない。
俺の瞳をまっすぐと見つめて、とてもきれいな目をしている。
こうしてみると、よく勝てたなと思う。
いやー、スライムのスキルを使えなかったら相手にもならない……
ありがとうスライムたち!
「細かな手続きはメリダにやってもらえ」
「そ、そうね。ギルドカードを発行するわ、ついてきてね」
「は、はい!」
誰も居なくなった訓練所でガウは先程の戦いを思い出していた。
ガウは槍を構えると、踏み込み、突き出した。
足元に置いていた石はその踏み込みで粉々に砕けていた。
油断はなかった。
カゲテルもスライムも、【把握】していた。
しかし、あの一瞬、二人共が認識から消えた……
あのスライムはこの震脚に耐えたということか……
それに、体勢が崩されたとはいえ、俺の構えを崩したあのまるで大河の流れに巻き込まれたような力……
何者だ……?
ユキムラが目をつけるだけの理由があるのかもしれないな……
「面白い……」
元Aクラス冒険者ガウ、彼はユキムラに戦いを挑み、圧倒的な存在を知る。
彼に匹敵しうる強者と出会うためにギルド職員になっていた。
いつの日か、ユキムラに勝つために。
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