勇者パーティの受難 その7
ついにメンバーが揃った私達は、もと来た道を歩いて引き返した。
わけじゃなくて。
流石にそこは転移魔法を使って帰った。
もしかしたらまた、何かしらの理由を付けて追い返されるかもしれなかったしね。
その心配はいらなかったけど。
「はい、四名でのパーティ登録、承りました。皆様の冒険の成功をお祈りしております」
「ありがとうございます」
私達を追い返した受付嬢は、何事もなかったかのように登録を済ませてくれた。
…彼女はこれが仕事だから、
条件を達成した人を追い返すことはしないのだろう。
噂では難癖つけて追い返す受付嬢もいると聞いていたけど。
この子はちゃんと仕事してくれるタイプだったんだね。
良かった。
なんて考えながら、
受付嬢から簡単な説明を受け、ギルドを離れようとした時。
「…ところで、皆さんは魔王討伐の旅に出かけるのですよね?」
再度彼女が話しかけてきた。
その言葉に足を止める私達。
…何か一波乱ありそうな予感がする。
彼女の横から現れた、無数の魔導書を持つ人たちを見てそう思った。
◇◇◇
「あの…他に何か問題でもありましたか?」
そう聞くイロアスは、どこか緊張しているようだった。
…そりゃそうか。
あの後私達が通されたのは、受付奥の更に奥の部屋。
どこか暗い雰囲気が漂うそこは、私達の緊張を誘うには充分だった。
「問題があるわけではないのですが…その、ハルモニア様に説明しなければいけないことがありまして。お時間頂いてもよろしいですか?」
「私?全然いいけど…何?」
私がそう聞くと、彼女はゆっくりと説明し始めた。
「魔王のいる西の国には、魔法を制限する大結界が貼られています。転生者様がいらっしゃるパーティですと、転生者様のご加護のおかげで問題なく魔法を使うことができるのですが…転生者様がいらっしゃらないこのパーティでは、ご加護がないので…」
「魔法が使えないってこと?」
「簡単に言えばそうですね。…こちらの魔導書に載っている魔法以外は、になりますが」
彼女が指した魔導書を見る。
…普通の魔導書のように見えるけど、なにか違うのかな。
「どうして、その魔導書の魔法は使えるの?」
「こちらの魔導書達には、『初代知恵者』様のご加護が付与されています。なので、魔王の結界の影響を無視できるそうです。もしこのパーティで冒険なさるなら、一冊だけ差し上げますよ」
彼女の説明を受け、再度魔導書を見る。
そしてエルピーダに目配せをした。
「…うん、この魔導書に掛かっている加護は本物だよ」
「そう。…私が旅をするなら、この魔導書から一つだけ選ばないといけないんだよね?」
「そうですね」
どうしようかな。
正直、この魔導書たちに上級魔法が載っている気がしない。
だから私は普段使わないような魔法で戦わなければいけないということで。
…結構不利になるよね。
なんて悩んでいる私を見て、受付嬢とイロアスが同時に話し始める。
「ハルモニア様はきっと、他のパーティに行ったほうが――」
「君が不利になるのなら、無理しないで別の――」
「――これにする」
二人の声を遮って、私は一冊の魔導書を指さした。
どうせ上級魔法は使えないんだし。
知らなさそうな魔法が載っていそうな本にしよう。
それに、さ。
「私はこのメンバー以外と旅をするつもりないから。―この魔導書、くれるよね?」
「…どうぞ。差し出がましい真似をしてしまい、申し訳ございません」
私が認めたのは、転生者でも他の人でもない。
「ルニア、本当に僕たちのパーティでいいの?」
「当たり前でしょ。イロアス達だから着いていくんだよ」
私が認めたのは、イロアス。
君なんだよ。
受付嬢から貰った魔導書をバッグにしまう。
何の魔法を使えるかは、後で見てみよう。
「それで…ハルモニアに対する説明は、もう終わりましたか?」
「…すみません、あと数分だけ頂いてもよろしいですか」
説明…まだ終わってなかったんだ。
でもこれ以上説明することってあるかな?
疑問に思いつつ、彼女に頷いた。
それを見て彼女が続きを口にする。
「ありがとうございます。えー…ハルモニア様なのですが、西の国へ向かった他の全パーティから対戦拒否が出されてまして…」
「…ん?それって何かまずいことなの?」
「その…もしも他のパーティと争いが起きた時…ハルモニア様だけはその戦闘に参加できません。もちろん、補助魔法を使うのも禁止です」
他のパーティと戦闘なんてなるのかな。
ちらっとイロアス達を見る。
皆首を傾げていた。
だよね。
私が参加できなかったところで、皆強いから何の心配も――
「それに加え、ハルモニア様は他の全パーティからパーティへの招待を受けています。…なので、他パーティとの戦闘に負けた場合…勝った方のパーティへ加入してもらうことになります」
…なるほど、結構重大なことみたいだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます