勇者パーティの受難 その4
「私…イロアス達にその話したことあったっけ」
「ないと思う。…でもそれは誰でも知っていることだと思うよ」
「うんうん、だって原初の魔法使い様だからね〜」
にこにこと微笑む二人。
どうやら『原初の魔法使い』という称号は、私の知らない間に広まってしまったらしい。
だからか。
私が街へ行ったときとか、結構視線を集めてたのは。
ああ、そういえば伝説の魔女様って呼ばれたこともあったっけ。
…そんな大層なものじゃないのに。
ただ、この世界で初めて魔法を使った。
それだけなんだけどなぁ。
「あのさ、その噂?ってどうやって広まったの?」
できればその噂を止めておきたい。
居心地が悪くなるのは嫌だからね。
誰でも知ってるって言ってたし、手遅れかもしれないけど。
「噂が広まったのは、ルニアが一番初めの転生者様の誘いを断ったときらしいよ。噂の元については…神話かな。神話に出てくる原初の魔法使いが、ルニアにそっくりだってなって」
イロアスがそういうと、エルピーダは席を立った。
書斎の方へ遠のく背中を見ながら、私はさっきの言葉について考える。
噂の元は、神話。
…神話…?
神話というのは神様のように優れた人物に関する話を書くもの。
だと思っていたんだけど。
なんで私が?
姉さんやエルが載るならまだしも、私が?
あってはいけない事実に頭が混乱する。
よく考えよう。
私の姉さんは武才が抜きん出ていた。
姉さんの参加した戦争が神話になるのは当然だと思う。
私の妹、エルは誰よりも知恵を身につけていた。
今、彼女は別の世界にいる。
けれどきっと、その世界でも上手くやっているのだろう。
だって彼女は神話に載っても可笑しくないくらいの知性があるから。
やっぱり私の姉妹達は神話に載るのが相応しいと思う。
あのさ…その二人に対して、私ってなんかあったっけ。
持ち合わせたのは魔力の才だけ。
たまたま皆より習得が早かっただけで、エルフなら魔法なんて誰でも作れただろう。
うん、やっぱりおかしい。
「イロアス、多分その神話って神話じゃないよ」
「うん、どういう経緯でそうなったの!?」
目を丸くするイロアスに経緯を話す。
途中で戻ってきたエルピーダは、手に持っていた本を落とした。
その本を拾ってあげつつ、軽く中身を見させてもらう。
本に書かれていたのは…とあるエルフの三姉妹のお話。
…なるほど。
これが例の神話か。
この神話は…うん。
パラパラと流し見しただけでも、事実に沿って書かれた物だとわかる。
そして、確かにこんなものが流れていたなら人間は私を「伝説」と呼ぶだろう。
だけど、この神話には重要なことが書かれていないよね?
「うん…この神話の内容は確かに合ってる。けど、なんでこれから私が特定されたの?」
そう。
書かれていないのは、原初の魔法使いの名前。
姉と妹は名前が出ているから特定されても仕方ないけど、私に関しては『原初の魔法使い』としか書かれていない。
どうやってここから私を特定したのだろうか。
「…あのさ、ハルモニアさん。その神話の三ページ目って見た?」
「三ページ目?詳しくは見てないかな」
「見たほうが良いと思う」
正気を取り戻したエルピーダに薦められ、私は三ページ目を開く。
そこに書かれていたのは…
「原初の魔法使いは、黒髪で碧眼のエルフだった。…それがどうかしたの?」
別に、黒髪のエルフなんて沢山いるでしょ。
私の言葉に二人はため息をつく。
え、私何か変なこと言ったかな。
首を傾げる。
見かねたイロアスが答えを教えてくれた。
「…あのね、ルニア。黒髪のエルフは確かに沢山いるけど。黒髪と碧眼を併せ持つのは君だけなんだよ」
「…そうなの!?」
「そうだよ。ほら、そこにも書いてあるけど…『エルフの碧眼は高貴な姉妹のためだけに作られた』ものだからね」
イロアスが指差す場所を見る。
確かにそう書かれていた。
でもこれって昔の人間が書いたものなんじゃないの?
それが正しい根拠ってないんじゃないかな。
そこまで考えて思い出す。
そういえば姉さんが言ってたな。
神話を作れるのは神様だけだって。
すっかり忘れてたから、人間が作ったものだと思ってた。
私の前提が間違っていたから、分からなかったのか。
…神様に書かれたことならそりゃ皆信じるし。
碧眼と黒髪を持つのが私だけならそりゃ特定されるし。
…広まった噂って確か戻らないんだよね?
つまり私は、これからもあの視線に晒されながら生きていくのか。
「…神話を消したい」
「え、急にどうしたの!?」
「ごめん、エルピーダ。ルニアってこういう感じだから」
「あ、あー。そうなんだ…」
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