第5話
「ボタン...?」
言われてみれば、人懐っこい表情や尻尾の振り方、そして美しい毛並みはボタンらしさが溢れている。
「ほんとに?本当にボタンなの?」
「あの日、我を庇って死んでしまったとわかった瞬間、必死に願った。もう一度やり直したい、今度はこっちが沙羅を守る側になりたいと。そしたら...フェンリルになった」
「じゃ、じゃあキクとサクラはどこか知ってる?」
「知らんが、2人共元気だ。ここにくる直前に見たが怪我もない。おそらく一緒にいるだろう」
「よかった...。私がすぐに死んじゃったせいで、守りきれなかったから。無事で本当によかったよぉ」
鼻の奥がツーンとする。
しかし堪えた。泣くのはみんなが揃ってからにしよう。
鼻をすすりながら次の話にうつった。
「そういえば、女神様が北欧神話が好きなんだよね。てことは、あの子達も北欧神話の何かに姿が変わっているのかな?」
「だろうな」
(巨人族になってたりしたらどうしよ...)
「何はともあれ、この辺りにはいないと思うぞ。さっきまでここらを一周してみたけど見つからなかったし、匂いもしないから」
「そっか。ありがとね」
だとしたら、キクとサクラはどこにいるのか。今の、なんの手掛かりもない状況では見つけることは不可能に近いのでは。
不安の色が広がった。
「とりあえず、近くの町で聞き込みをしてみるのが今は一番じゃないのか?少しでも手掛かりを掴まなければ」
「わかった」
ボタンに案内されながら歩きだすと、あっという間に活気のある町が見えてきた。
「そういえばボタンみたいな大きな子連れてて大丈夫なの?」
「ここは異世界だから、従魔にしたとでも言えばいいだろう」
「なるほど!」
早速聞き込みを開始しようと、話してくれそうな人を探す。
その間、通りすがる人がボタンの毛並みを綺麗だ、とか大きくて立派ね、とか言うものだから本人は誇らしげにフフンと言いながら歩いている。
町のベンチに座っている優しそうな老人を見つけたので、話を聞くことにした。
「すみません。少しよろしいですか。最近、この辺りで何か動物や珍しい種族についての情報を聞きませんでしたか?」
「動物?そうだな...最近は人がいないはずの北の森で歌声を聞いた者が多かったり、毛が長くてとても大きな猫を見た者が増えているなぁ。それと真っ黒な狼が夜に獲物を狩っているのを見たという者がいるのだが、お前さんの連れているそれのことではないか?」
「え?!」
バッとボタンを振り返る。
「我ではないぞ。ここに来たのは沙羅と同じ時。つまり今日だ。まだ夜を過ごしていない」
「じゃ、じゃあそれはなんなの...」
「まあ、情報はすぐそこの掲示板に書いてあるからそれを見ればいい。もしも魔物を討伐したいのなら、そこの角を曲がった先にある冒険者ギルドに寄るのを忘れずにな」
「ありがとうございました!」
礼を言ってすぐに掲示板に駆け寄った。
【魔物情報】
・北の森で美しい歌声。魔物か、それともエルフか。
・同じく北の森で巨大な猫の目撃情報多数。北の森は危険なので冒険者以外は立ち入り禁止。
・西にある暗黒の森で真っ黒で大きな狼による被害。死亡者、怪我人が数名。
書いてあったのはその3つだった。
異世界転生は愛するペットたちと共に〜ペットたちを庇って死んだら異世界に転生してしまった件〜 一宮琴梨 @maccha3150
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