第4話

 ボタン、キク、サクラが見当たらないので少し歩いてみることにした。

 しかし、数分間歩いても見えるのは得体の知れない植物やフルーツのようなものがなった木だけ。


 「はぁ。もう、疲れたんだけど」


 心の底からうんざりする。


 その時、複数人の人の声のような音が聞こえた。人の声にしては少し高くてケモノの鳴き声の可能性もあるが、とりあえず見に行ってみることにした。

 声(?)が聞こえる方へ走ると、その先には小さな集落が見えた。


 「やった...」

 

 (今は人の姿はないけど、もっと近くに行って犬や猫を見なかったか聞こう)


 そう思い、足を踏み出した。

 けれど...


 ズルッ


 (足場が、ない...!)


 「うぎゃっ」


 気持ちが先走ったことが仇となり、周りがよく見えていなかった。

 幸い、それほど高くはなかったけれど、もう一度登ることは不可能だろう。


 落ちた音が聞こえたのか、そばの家(?)の扉が開いた。

 しかしそこから出てきたのは人間ではなかった。


 緑色の皮膚。尖った耳。赤い目玉に開いた口の中から覗く牙。そして石で作った斧を持つ腕。

 典型的なゴブリンだった。


 「えー。まじか。いやいや、嘘でしょどうしよ」


 予想外の展開に、思わず声が出る。

 

 呆然としている間にそのゴブリンが何やら奇声をあげ、続々と仲間が増えていく。

 そして、おそらく全員集まったのかみんなこちらを向く。

 

 (こっちくるのかな?お願いだから見逃して。転生したらすぐゴブリンに殺されるとか、最悪なんですけど)


 願いは叶わず、全員が一斉に走り出した。

 もう諦め、目を瞑った。


 「いやあぁ!」


 ドゴォン!


 その時、体の芯まで振動するほど強い力が地面に伝わった。

 

 (あれ?ゴブリンってこんなに強かったっけ?)


 うっすらと目を開けると、目の前にいたのは緑色の集団ではなかった。

 真っ黒だけど、艶があって美しい毛。鋭い爪と牙。狼なのか。


 それは瞬く間にゴブリンの大群を散らし、全て倒してしまった。

 だが安心することはできない。なぜなら相手はゴブリンをいとも簡単倒してしまった。次殺されるとしたら、私だから。


 命を諦めた時、それは、くるりとこちらを向き、尻尾を振り出した。さらに...


 「久しぶりだな!沙羅!会いたかったぞ」


 (声ふっと!じゃなくて、しゃべった?!)


 「あなた、喋れるの?」


 「ああ!フェンリルだからな」


 人間でなくてもわかる。なぜかドヤ顔で、自信満々に言った。


 「うそ。フェンリルって、水色とか白色とかでしょ?」


 「お主が生前見ていたアニメとやらではそうだったな。しかし本物の、北欧神話のフェンリルは黒だぞ。ここにくる時、女神がこの体にしてくれたのだが、その女神が大層北欧神話が好きでな」


 「そう。それよりあなた、誰よ」


 「ボタンだ!」




 




 

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