第3話 勤務時間

 板橋いたはしきらり(82)と老川おいかわヨネ(23)は投影された動画である他の2人の監視員とともに、Zoozle Meetズーズル・ミートの画面上のAIをぼうっと眺める。


ヨネ(23)「それにしてもさ、毎日退屈だよね。」

きらり(82)「そうか?俺はこのZoozle Meetズーズル・ミートのおかげでみんなと話せるから特に不自由は感じないが。」

ヨネ(23)「本気でいってんの?毎日毎日ただ画面越しに機械を眺め続けるだけの毎日。きらりはうんざりしない?オンスクで習ったけど、昔ってもっと自由だったんだって。」

きらり(82)「別に…これが日常だからな。あ、でも俺の若いころはOnline Schoolオンスクじゃなくて【保育園】とか【学校】ってもんがあって、毎日そこにわざわざ通ってたんだよ。宿題とかもあって、今考えたら超面倒くさい"システム"だったな。あと、今よりもう少しいろいろな仕事があったな。AI監視員は多かったけど。」

ヨネ(23)「きらりはAI監視員以外の仕事したことあんの?」

きらり(82)「あんよ。俺の若いころはまだAIロボットが今ほど安くなかったからな。毎日わざわざ家から会社…あ、仕事をする場所のことな。当時も家でできる仕事が大半だったんだが、仕事をする場所までわざわざ乗り物にのって1時間もかけて移動してさ。往復で2時間だ。1日は24時間しかないってのに、バカバカしいよな。」

ヨネ(23)「……で、何の"シゴト"してたの?」

きらり(82)「あぁ、そうそう、ヤベェ。俺もそろそろボケてきたかな。修理屋さんだよ。なんかを修理する仕事とか、命を扱う仕事とか、伝統技術の継承…あ、何のことかわかんねぇか。…まぁつまりだな、人間の”経験”とか”感覚”で勝負するシゴトってのは当時はまだ結構生きてたんだよな。俺は、監視員と兼業で、壊れたおもちゃとかを修理するシゴトをしてたよ。」

ヨネ(23)「おもちゃ??…なんかで聞いたことあるかも」

きらり(82)「昔はなぁ、もちろんゲームもあったんだが、今よりもずっとたくさんの遊びがあったんだ。【学校】が終わった後みんなで児童館っていう子どもが集まる施設にいってみんなでカードゲームしたり、ボール遊びしたり、公園っていう、町の中にある子どもの遊び場に行ってサッカーしたり、友達の家にみんなで集まってブロックとかボードゲームで遊んだりしたんだよなぁ。」

ヨネ(23)「他人の家に入ったりすることがあったんだ。考えらんない世界だね。てか、どんな遊びなのかさっぱりだけど、なんかきらり、楽しそうだね。」

きらり(82)「なんか懐かしくなってな。でも今は今で悪くないぜ。ほとんど外に出なくていいからサッカーでケガすることもないし、変質者に気を付けながら学校から家に帰る必要もない。いじめにあうこともなければ、殴られることもない。家の中で飲み物飲んで運動しているだけで生きていける。楽ちんで平和な世の中だ。」

ヨネ(23)「そう?あたしには、きらりが住んでた"昔の時代"の方がよっぽど平和な世界に思えるけどね。てかさ、82歳のセリフじゃないよ、きらり。」


 そう言いながら、ヨネはEnergy Juiceエナジー・ジュースを1本、ぐいっと飲み干した。

ヨネ(23)「よし、今日の食事は終了。」

きらり(82)「やべっ、俺も早く飲まねーと。」



 画面の中のAIは寸分の狂いもなく動作していた。







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