第3話 好むと好まざる……


 守の成長は周囲の人々に影響を与え、他の人々もリーダーを目指して活動を始めた。

 守にとって、太った女性や中年男性は、大きな目の上のたんこぶのような存在だった。6月18日の火曜日、守はその中年男性に誘われ、遠くの畑の整地作業をすることになった。


 中年男性は守に言った、「おしゃべりは禁止だ」。守はそれでも良いと思いつつ、道具を持って畑の整地に向かった。畑に着くと、中年男性は自分の意見を前面に出し、命令するようになった。「しゃがむな」「そこをやれ」と言い、個々の性格や特性を無視して恫喝し、自分の意のままに仲間を使役しようとした。


 守は思った、「この中年男性は昔からこのようにして皆に嫌われてきたのだろう。それなのに、未だにその方法に固執し、また皆に嫌われることが分からないのだろうか?」


 守は中年男性と衝突を繰り返し、理解しようとする気持ちを失い、作業を遅らせるようになった。「トイレに行ってくる」と言って、作業場を離れたり、明らかに嫌々作業をしたりした。


 守は、恫喝されたからと言って、自分の誇りを捨ててまで中年男性を喜ばせるように振る舞い、惨めに従うつもりはさらさらなかった。


 緊張感が高まった。中年男性は守の抵抗に戸惑った。守は中年男性との争いが起こらないように祈った。


 やがて、新しいカゴが到着し、支援員Dから遠くの畑の作業を止めて、建物の中でカゴ拭きをするよう指示が出た。


 そこで守は中年男性と別れ、作業場の奥の部屋でイナズマ、太った女性、Bさんと共にカゴ拭きを始めた。守は中年男性との一件に不満はあったが、それはそれとして、心機一転、楽しそうに作業を始めた。


 よく見ると、太った女性は守のやり方に興味を持っているようだった。守は思った、「これは面白い!」守はここに介入する余地があると考えた。


 守は考えた、「良いことをしたら『はい』と言おう。好ましくなければ無視しよう。説明を求められたら、良い点を言おう」と。


 実際に試してみることにした。「このカゴを拭いてください、お願いします」とイナズマが太った女性に言った。太った女性が「はい」と答えると、守もそれに同意して「はい」と言った。作業を進めるうちに、太った女性とイナズマの「お願いします」という声掛けが精度を増した。「はい」「はい」と、それは見事に成功した。


 紹介が遅れたが、この太った女性の名前は太田響子だ。守にとって今は響子との接点はないが、「奇貨居くべし」という言葉もあるから、守は響子を手札に入れてみることにした。


 しかし、守は響子が狂暴だという話を皆から聞いており、どのように扱うべきか分からなかったので、しばらく響子を見守ることにした。


 守は彼らの成長に尽力し、好むと好まざるとにかかわらず、大きな力を手に入れようとしていた。


 昔から、顕示欲によって身を滅ぼした人間が多い。守はその轍を踏まないように、その力を使う者として相応しい器になるよう心身を整え、研鑽を積む必要があった。


 守は他の人より成長したとはいえ、まだこの力を皆の幸福のために上手く使いこなすことができなかった。


 やがて守は、「はい」というやり方を使って、皆が作業に参加すれば、皆の満足度が上がり、充実感を得られるのではないかと考え始めた。


 なぜなら、この力を扱うのに不慣れで、当面は分散させておいて、本丸が狙われないようにしたかったからだ。


 つまり、平時はこの力を個々に分配しないと、守に力が集中してしまい、そのために決断を要求され、未熟な守は周りの人に対して誤った判断を下す危険があるということだ。

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