第2話 はずれないタガ
守は、月曜日に、事業所に行った。
今日の午前中は、守が、旗を振り、ゴウ、コトゲ、イナズマの3人と、太った女と、共にカゴ拭きの作業する事だった。
建物の中の、冷房の効いた部屋で、守と、その仲間達は、作業を始めた。
そこには、何時もの毎日があった。
ところが、彼らに、5つの言葉を、教えていく中で、彼らとは、別の人達が、守のやり方を見て、彼のようにやろうとして、失敗すると、その腹いせに、事ある毎に、守たちに、挑戦してくるので、困っていった。
特に、太った女と、中年の男は、高飛車な態度で、守の大切な彼らに対して、自分の下僕(げぼく)の様に接してくる。
しかし、守は、太った女や、中年の男を注意することは、出来なかった。
何故なら、太った女や、中年の男は、凶暴で、更に、自分の非を、簡単に納得してくれる、人では無いからだ……。
そこで、今まで伏せていた、彼らの縛りを解くことにした。
「皆さん、いいですか? 今まで、5つの言葉を、教えてきましたが、それに、対となる返事をするのは、自分が、納得できる時だけで、いいんですよ」
「どうゆう事?」
イナズマが、守に聞いた。
守は、にっこり笑って説明する。
彼女や、中年の男、それに、他の人達と、勝てる見込みのない人達とは、争はないでください、戦うだけが、主張ではありません。ただ、私がして欲しいのは、納得できる時だけ、返事をすることで、肯定している事を、他の人に、主張する事です。納得できないなら、返事をしなくても良いのです。それも主張なのですが……私は、その為のルールを作りましたが、「はい」をいうか? どうか? の判断を、私は、君達に、任せたいのです」
そう守は言った。
守は、彼らへの直接的な指導から、その5つの言葉に対する、コントロールを、彼らの方へ、どんどん、委(ゆだ)ねていった。
確かに、その事で、一時的に混乱を生じ、仕事場の雰囲気は悪くなった。
しかし、全滅したわけでなく、細々と、続いていた。
やがて、落ち着きを、取り戻すと、何時もの状態に、戻っていった。
そこで、守は、彼らに、最後の言葉、「済みません」の説明を、作業をしながら、彼らの様子を見ながら始めた。
「良い、組織で、生きていくには、『済みません』と、言う言葉が、絶対に必要なんです、何か指示があって、それに対して成果を上げれば、上司から『褒め』られるが、それが、失敗したら、上司に、『済みません』と謝る必要があるからです……」
ゴウは、何となく分かっている様だが、コトゲと、イナズマは、その重要性が、 それが、どうゆう事なのか? 良く分かっていないようだった。
午前中の作業の中で、中々、『済みません』を使う、場面に出会わないので、守が思っていた様な、彼らの納得を促す、追加の説明ができなかった。
そんな中、イナズマは、時々、暴言を吐いて、場を、しらけさせていた。
それでも、コトゲは、今のところ、順調に仕上がっていた。
更に、ゴウは、就労を目指しているだけあって、守が、話せば、水を吸うスポンジの様に、守のやり方を、吸収していった。
昼休みに入ると、守は、最後の言葉を、彼らに、伝えられた事を噛みしめていた。
確かに、それは、思った通りではないが、全てのミッションを終えて、ひと安心、守は、肩の荷を下ろした。
守は、思った。
……これからは、就労する為の情報を、集めないといけないのかなぁ? ……
守には、中々、その決断が下せないでいた。
今日は、6月中頃、それは、とても、暑い日だった。
7月に入ったら、もっと、熱くなるかもしれない……。
守は、今から、何らかの暑さ対策を、しなければならなかった。
午後になって、別の作業にコトゲを、取られると、守は、再び旗を振り、ゴウと、イナズマの2人と、太った女と、共に、作業を始めた。
作業が始まると、イナズマの暴言は、止むことがなく、喉に、引っかかった棘の様に、チクチクと、守の心の深いところを刺激した。
守は、堪らず、言った。
「暴言を吐くのは、仕方ない、でも、暴言と気づいたら、『済みません』と言って、ください……」
それでも、暴言は、収まらなかった。
ただ、守には、ルーティーンがあるので、まず、イナズマが、暴言を吐いたら、「うちの若いもんが、済みません……」と言って、イナズマが、誰かに暴言を、吐いいた、と言う事に、気づかせる、まずは、そこら辺から、始める事にした。
2,3回、そういう事を、繰り返したが、それでも、イナズマは、守の意図を、思ったように、理解する事は出来なかった。
守は、イナズマの態度に、段々、疲れてしまい、暴言を吐いた時のタイミングで、「こういう時は、『済みません』と言って、ください……」と言う様に、注意する余裕がなくなっていた……。
その内、時間が来て、今日の作業は終わった。
ただ、直感的だが、その場の空気が、何時もの乱れる、そんな、日々とは違い、今日は、常識と言うタガが、外れない状態だった。
そして、そこには、今までにない、ある種の安定感が、確かにあった。
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