8.救出

わああああああああーーーーーん、わああああああああーーーん


 お主様のもとから、ルーとジョーの所へ向かう途中で、泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

「一体、何事だ」

「ああ、フクロウさん、イーとスーを助けて」

「オレらが悪いことしたんだ、お願い」


 ニザミモの木の下に落ちている塊二つに目を向けた。

「ああ、怒りで周りが見えなくなるとはこのことか」

 フクは左の爪でイーを右前爪でスーを掴むとバサリと翼を広げた。


「出来る限りのことはする」

 そういうと森の奥へと飛び立って行った。


 ルーとジョーは、この間ジョンの斧がルーに当たった時、瞬時に腐食させ刃を壊してしまったことで、改めて自分たちがニザミモの木であることを自覚した。そして今、自分たちの身体からこんなに粘着性物質が出て、リスをあっという間に撃退げきたいしてしまったことに驚いている。傷つける様なことはしたくない、その思いとは全く異なる身体の反応に戸惑いを隠せないでいた。

 

 オオフクロウのフクはニザミモの大木の根の隠れ家に来ると、くちばしで入り口を開けニザミモの木で出来たテーブルの上にイーとスーを転がした。ここからは時間との戦いだ。


フューイ、フィフィーイ。フューイ、フィフィーイ


 外に向かって低い鳴き声が響き渡った。隠れ家の隅に置いてあるどろりとした液体の入ったバケツに足とくちばしを突っ込んでからリスの口の中に入った粘液を吸い出すように取り除いていった。


 まもなくして、外からヤモリ部隊が連なって二十一匹やって来た。フクはテーブルの端に移動し、ヤモリ部隊を机の中央に迎い入れる。そして、先ほど使ったバケツを机の上に移動させた。


「ヤモリ部隊。後を頼む」

「おお、派手にやられたな」


 ヤモリ部隊はニザミモの粘液にやられた動物の救出係。一匹違う色のヤモリが隊長だ。

「二班に分かれて、はじめ!」

 早速、隊長が号令をかけると、さっと十匹ずつわかれ、さらに一、三、三、三にわかれた。各班一匹は指令係。各班三匹のヤモリたちは、バケツの中に体を浸した後、リスの方へ向かい、体中についたベタベタを取り始めた。


「交代」

 次の三匹に交代する。指令係は様子を見ながら交代の指示を出していく。イーとスーはベタベタと共に体の毛も抜き取られて殆ど丸裸の状態になった。

「これで、いいだろう」

 指令係二匹は、作業を止め、心拍、呼吸を確認した後そろって作業の終わりを隊長へ報告。隊長は、頷くとフクに向き直り、任務の完了を告げた。


「リスは気を失っているが、ニザミモの粘液物質による危険からは回避されたと考えてよい」


 フクは爪でイーとスーをつかみ、羽毛のベッドに転がした。羽が全身について、弱った小鳥が横たわっているように見える。

「これで、数日寝かしておけば大丈夫だ。助かった」

 やっとフクの顔に笑みがこぼれた。


「ニザミモが増えたとは喜ばしいことだ。日々の鍛錬に身が入るよ。それでは、全員退散」

 ヤモリ部隊は列を乱すことなく隠れ家から出ていった。フクは、転がっているイーとスーに視線を向ける。


 ニザリスはニザの国に生息し、ニザミモの木に卵を産み付ける虫を追い払ったり、ニザの民が住む場所に出向き住民たちの様子をニザミモのお主様へ伝えたりしている。イーとスーの両親はジョンの木彫りのモデルとなったリスたちで、ジョンとルカを大変気に入り応援していた。ニザミモの果実をジョンとルカの家の裏庭に埋めたことも、長女ナミの誕生日にルーが芽を出し、ノハの誕生日にジョーが芽を出したことも知っている。ノハが毎日のようにニザミモのルーとジョーの所に遊びに来ていることを遠くの木からそっと見守っていた。

 

 そんな両親を継承したイーとスーは、ルーとジョーを立派なニザミモにするために張り切っていた。まさか、自分たちがいない間に騒動を起こすとは考えもしなかったのだろう。頭に血が上ったイーとスーが容易に想像できた。そしてフクはため息をつく。


「私はまだまだ修行が足りないということだな」

 フクは隠れ家をそっと出るとイーとスーが寒くならないよう戸口をしっかりと閉めた。



  

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