6.ナンナの居場所

「おれ、ルーとジョーの所に行きたい」

「ボロボロになった斧も見せてあげる」

 ナックは整えの季節にナンナを連れてきた以来。ルーとジョーに元気がなく、ナンナの荒療治で回復した時に来てから数か月経っている。


 四人でテクテクと歩いていくとルーとジョーが見えてきた。数か月でこんなにも大きくなるのかという位、大きくなっている。幹も太くなり、枝もかなり伸ばしていた。ナックは幹、枝、葉隅々までじっくりと観察していった。

「ニザミモのお主様とは樹皮や枝の色や葉の大きさが違う。ニザミモだと言われないと気が付かないよ」

「千年のニザミモとまだ十年も経っていないニザミモだもの。おばあちゃんのしわしわ肌とノハのつるつる肌全然違うのと一緒だよ」

「まあ、ジョンのお蔭で、枝を切ると刃が駄目になるというニザミモの一番の特徴を証明できたから、ニザミモであることは間違いないわね」


 こうして、ナックの疑問は解消されたのだけれど、ナックはニザミモの木を見ていながら今までニザミモだと気が付かなかった自分に不甲斐なさを感じ、ノハの家に来るときに比べ、帰路の足取りは重かった。

 

 翌日、ナックはナンナを連れて、またノハの家にやってきた。ノハはナンナを見て走り寄り、首に抱きついた。


「ナンナ、久しぶり。元気だった?」

ヒュシュー

 鼻息を鳴らしながら、元気だと答える。


「まあ、元気は元気なんだけど。オレ昨日から学びの小屋始まっただろ」

「うん」


「馬小屋に繋いで出かけたら、おれが留守の間ずっと鳴き叫んでいたらしいんだよ。昨日は直接ノハの家来ちゃったから、昨日と今日二日間ともずっとだって」

「えっ、お留守番出来ないの、ナンナ」


「なんかオレ、おいて出かけるの悪いことしている気分になっちゃって」

「じゃあ、ナックが学びの小屋に行っている間、うちに連れて来てみる?」


「えっ」

「父さんと母さんに相談しないと駄目だけど、ルーとジョーの所に繋いでみたらどうかな。ノハだいたいあそこにいるし」


「まあ、ナンナはオレかノハしか寄せ付けないからな」

 ノハとナックは家の裏にある木に向かっていった。


「どうしたの、これ、酷いじゃないか」

 ナックはささくれだったルーとジョーの幹をみて顔を歪める。広範囲にわたりひっかき傷がある。

「それがね……、ここに良く来るリスたちの仕業だと思うの」

「リス?」

「整えの季節は土の中で眠っていたでしょ。芽吹きの季節になって、地上に出てきたんだよ。二、三日前にちょろちょろしているの見たもん」


「そのリスが何でこんな酷いことするのさ」

「うーん、わかんない。でも、ルーとジョーはやられたこと怒っていないんだよね」

「何でわかるの?」

「えっ、ナックは怒っているように見える?」

 ナックは葉や枝、幹をひとつひとつじーっと観察した。そして両手を上にあげ、お手上げポーズ。


「オレにはルーとジョーが怒っているか怒っていないかなんてわからない。けれど、ナンナに続きリスまでもルーとジョーを攻撃したんだ。こいつら何かやらかしたことは間違いないな」

 そう言った直後、葉がフルフルと震え出した。


「ナック、そこまでにしとこ。父さんも失敗は沢山した方がいいって言っていたもの。ジョー、ルーも失敗しながら覚えていくといいよ」

 ノハは、ルーとジョーの幹をやさしくなでると、葉の震えもおさまっていく。


「それよりさ、ほら傷がある所すっごくべとべとしているでしょ。ルーとジョーを傷つけた分、リスも体中ベタベタになっちゃって大変だと思うんだよね」

 ナックは傷あとをじっくり覗き込んでだ。


「確かに、このベタベタついたら動きづらくなりそうだね」

「リスさん元気にしているといいけど……」

 ナンナは、先ほどから関心がない様子で近くの草をむしっている。

「ナンナ、ナックのいない間うちに来る? ナミ姉さん、今年から学びの小屋始まったから、ノハさみしいの」


ヒシュー

 ナンナは、ノハの所へやってきて、顔をノハの頭の高さまで下げる。ノハはそれが了解の合図だと受け止めた。


「父さん、作業小屋にこもっちゃったから、母さんに一度話をしてみよう」

 再びナンナを連れて、家へ戻った。家の近くの木にナンナをつなぎ、ノハとナックは家の中に入って行く。


「おばさん、こんにちは」

「いらっしゃい。ナック。ナンナも来たのね」

 つながれているナンナが窓から見える。

「おばさん、ナンナのことで相談したいことがあるんだ」

「なあに」

 ナックは、ノハに話した内容を伝える。

「それで、ナックのいない間、うちにくればどうかって、ノハが言ったの」

 ルカは笑いながら、賛成してくれた。


「ナンナのためと言うより、ノハのためにいいアイデアね。昨日からナミが学びの小屋に行っちゃったもんだから、さみしくなって何度も家とルーとジョーの所を行ったり来たりして落ちつかなかったのよ」

「わーい、じゃあ決まりだね」

「おばさん、ありがとう」


「ナンナをどこに繋いでおくかはジョンと相談しておくわ。私たちナンナに近寄れないから」

 早速明日の朝から学びの小屋に行く前に、ノハの家に寄ることが決まった。こうして、ナックが学びの小屋に行っている間は、ノハとナンナはずっと一緒にいられることになった。

 

  

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