2.ナンナの案内
フシュー
鼻息を一つ鳴らし、首を上下に大きく振り、道案内は任せてと主張している。
「よし、ナンナの後をみんなで行こう」
「ナンナ、頼む」
遅れを取らないようにと、椅子と飲み物をさっと撤収。ナンナは低木が生い茂り、ニザミモの木の枝に絡みついたるつる状の植物がだらりとぶら下がった
「えっ、ここ入るの?」
三人の声が重なった。こんな不気味な場所へ行くのか。
「ノハ、ここ通ったのか?」
「ノハ、行きはそれどころではなかったし、帰りはナンナに張り付いていたからわからないよ」
「まあ、ナンナに道案内頼んだんだ。ついて行くしかないね」
ナックは、少しでも通りやすくなるようにと、ニザミモの木に絡まったつるにナイフを当てた。
「あっ、駄目だ!」
ジョンの声が森に大きく中に響いた。
ジョンの制止より速く、ナックの持っていたナイフがつるに触れた。
ジュッ
焦げつくような臭いと嫌な音を立てて変色し、刃先が欠けていった。
「あー、やっちゃった」
「わあ、ナイフボロボロだよ」
「生きているニザミモの木に触れている植物を切ったり刈ったり出来なかったんだ」
ノハの暮らすニザの国は五つの地区にわかれている。各地区に一つ以上『学びの小屋』があり、八歳前後から十五歳位までの子どもたちがニザの生活や将来職に就く上で必要な知識・技能を学んでいる。教えるのは長老たちや地区の大人たち。ナックは昨年引っ越して来たので、十歳から学びの小屋に通い始め、ニザの特性を繰り返し学んでいた。
ニザミモの木とその木に触れている植物は、二十三年に一度落葉するその特別な日しか、刃物で切ることが出来ない。ニザミモが出す粘液質な汁でべたべたし使い物にならなくなるか、焦げて変質し脆くなる。これはここで暮らす上で覚えとかなければいけない超重要ランクの内容だった。
「折角教わったのに。習ったことが活用できなかった」
がっくりと肩を落とすナックにジョンは優しく語りかけた。
「ナック、いくら知識を詰め込んでわかったつもりでいても、それはわかったつもり止まりだ。実践して初めて意味がわかり、失敗してやっと自分のものになっていくとオレは思うよ」
「なるほど」
「だから、いっぱい失敗するといい。痛い思いをした分、学ぶところは大きくなる。それにオレもナック位の年のころ、同じようにつるを切ろうとしてナイフを駄目にしたことあったぞ。気にするな」
「おじさんもつるを切ろうとしたのか。子どもはやること一緒だね」
ノハはナックに小声で、こそこそしゃべる。
「うちの父さんはついこの間、斧を振り回してニザミモの木に当たっちゃって駄目にしたよ。母さんにめちゃくちゃ叱られてた」
「こらー、ノハ聞こえているぞ。ナイフより斧駄目にする方がショックはでかいぞ。それ以来慎重さが増したよ」
「おじさんの失敗は本当に大きな学びになったね」
三人は声に出して笑った。
それから、ノハはナンナの背に乗り、ジョンとナックが草や枝をどかしながら獣道にもなっていない所をやっとの思いで前へと進んでいった。本当にこんな所を通るのかと思う位、木や草が密集している。突如、複数の根が大きく盛り上がり、交差している場所が出現した。
「あっ、ここ、ここ」
ノハは指さし、大興奮だ。
「こんな所にまでニザミモの根が来ているのか」
ジョンは感心している。根は両手を広げても届かないほどの太さになり、地上に出た部分はもはや枝のように固い。ノハはナンナから降りて根と根の隙間に入っていく。
「あっ、ノハのそり見つけた」
穴の中からそりの先端がちらっと見える。平たい木を横に動かすと、一人用のテントを広げてもまだ少し余裕がある位の空洞があった。走っていき、鳥の羽の上に飛び込んだ。
「わあ、相変わらず、ふかふかだね」
続いてナンナを連れたナックが中に入る。ナンナは入り口に立って、続いて入ろうとしたジョンを
「こらこら、ナンナ」
ナンナは空洞の前に立ちはだかり動こうとしない。ナックは一度外に出て、ナンナの手綱を木に巻き付けた。ナックが再び空洞に入り、次にジョンも入り口に進む。
バシュ
「痛っ」
ジョンのうめき声が森に響いた。今度はナンナが木の枝を口で思い切り引っ張り、口を離したのだ。枝は勢いづいてジョンを直撃、行く手を阻む。
「ふー、父さんは中へ入れさせてもらえないようだ」
二、三度入ろうとしたが、都度ナンナに阻止される。木の木片を脚で蹴って投げつけたり、土を後ろ足で飛ばしてみたり。次第にナンナは殺気立ち、体から蒸気が立ち上ってきた。ノハとナック以外を絶対中に入れない、強い意志を感じる。
「こうも拒まれては仕方ない、ナック中をよく見てきてくれ」
「うん」
こうして、ノハとナックだけが、空洞に入ることになった。
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