2.お外に出るよ
ピチュ、ピチュ、ピチュー、コツン、コツン
ふと、ニザエナガのさえずりが聞こえ、はっとして、厚いカーテンを一気に開けた。一週間降り続けた雪がやみ、
「ニザエナガさんたち、おはよう。晴れているね。やったー」
ニザエナガさんもノハのお友だち。目の上と頬の毛がオレンジ、翼と尾は茶色のラインを引いたような羽毛を持つ白い鳥。今日も晴れたことをノハに教えにやってきた。
ノハは、ベッドから跳ね起きて、そのままバタバタと階段をかけおりた。
「父さん、父さん、雪がやんでいる。今日、お外に出てもいい?」
湯気の出た温かいミルクを飲んでいたジョンにかけより、期待の
「風もないし、雪の質もいい。まあ、いいだろう」
わー、やっと外遊びが出来る。その場でぴょんぴょん跳ねまわった。
「まずは、腹ごしらえだ。しっかり食べるんだぞ」
「うん」
ノハはあつあつの野菜たっぷりスープにスプーンを入れた。丸ごと入っているおいもをちょっとずつ崩し、スープと一緒に口に運ぶ、これがノハの好きな食べ方。具沢山スープは寒い季節の定番料理。暖炉の火で作り、毎日少しずつ食材を付け加えていく。ノハはおいもとにんじんを毎日おかわり。ナッツの一種でのニザの国で採れるペリュドリーの実を一かじりしながら、ジョンをじっと観察した。
無精ひげを生やしている時はまだ作業がやりかけで、ノハの頼みは断られることが多い。けれど、ひげをそってさっぱりした顔になっている時はおねだりしやすいことを経験則で知っていた。今はさっぱりした顔。よしチャンス!
「父さん、ひとりでそりに乗ってもいい?」
「ああ、仕事がひと段落したから、一緒に行こう。きっと、ロールやナックたちもそりを抱えて小山に来るだろう。みんなそり滑りをしたくてたまらないだろうから」
「やったー!」
ノハの家の近くにはそり遊びに適した小さな山がある。毎年、雪が積もる時期になると近所のこどもたちはそりを抱えて集まってくる場所だ。
今日は初ひとりそりの日。待ちに待ったひとりで滑る日。朝食を終え、雪遊び用の服に着替え自分のそりを大事そうに抱えて戸口へ向かった。
「なんだか、そりが歩いているみたい」
ナミがそう言って笑うと、家族みんながノハをみてほほ笑んだ。ノハの姿はすっぽりとそりで隠れ、ノハ自身も前が見えずに手探りで進んでいく。ノハは何日も何日もこの日を待ち望んでいた。多少前が見えなくてもお構いなし。
ゴチン
「いてて……」
やっぱりドアの角にぶつかった。いつもは大声で泣くけれど、今日は楽しみが上回っている。平気、平気、ぶつけたおでこをさすりながら外へ出た。
ノハがそりを持ち外に出て、小山に続く広場に向かうとすでにナックと姉のララ、ロール、ミーク兄弟が集まっていた。ナミはララを見つけると家の前で雪のお人形を作ろうと誘っている。ララとナミはとても仲良し。きっとすぐに雪遊びをやめてお部屋の中でおしゃべりが始まるだろう。だって、ララはそりを持って来ていないもの。ララとナミは、早々にみんなから離れてノハの家に向かって行った。
「見てみて、私のそり。今日はひとりで滑るの」
ノハは、そりを持ち上げ背の高いロールを見上げた。
「素敵だね。手を握る部分の形が
最年長のロールはジョンを兄貴のように慕っている。ノハのことは生まれた時から知っていて妹のように可愛がってくれる。
次は、ミーク。ミークはいつも面白くてやんちゃな男の子。
「滑りやすそうだね。それにかっこいい」
言われるたびに、ノハは嬉しくなってぴょんぴょんとその場で跳ねた。帽子の先についているボンボンも一緒に。パワー状の雪がノハに合わせて舞い上がる。雪が手袋の上で光り、結晶の形までよく見えた。
みんな自分のそりを持ち、斜面横の細い丸太で作った階段を列になって登っていった。ロールを筆頭に大きい子たちは、高いところまで
(ここでも十分に高いところだね。大丈夫かな……)
「ノハ、最初だから、この辺から一度滑ってみれば?」
ナックが声をかけてくれた。ノハとは五歳以上年が離れ、もう十一歳になる。面倒見がよく、小さい子の扱いが上手い。ナックには三人の姉がいて、その姉たちに散々お世話されていたせいか、細かい所までよく気がまわる。今まで外国で暮らしていたけれど、今年から父の故郷のニザに引っ越してきた。知り合ってからまだ一年もたっていないけれど、ノハの
ノハは「この辺から滑ってみたら」とナックに言われ、ほっとした気持ちになった。あんな高い所から滑ること出来るかな、と少し不安になっていたから。少し平坦になった雪のうえにそりを置く。
「ノハが座るまでおさえていてあげる」
ナックはノハのそりの側面を持ち、乗るのを手伝ってくれた。
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