第三場。
場面変わって、飛行船ナルフェール号の倉庫。
黒ローブ達がアウローラを運んでくると、椅子に安置する。
アイポーツ:ひとまずこれで良い。
カウアドリ:このガキ、食べ過ぎなんじゃねぇでしょうかねぇ。
マーチ:ああ、普段の荷下ろしでも、ここまできつかぁ無かったぜ。
アイポーツ:おい、お前ら仕事はもう終わりだ。
マーチ:報酬は?
アイポーツ:知るか、後日払う。さっさと失せろ。
カウアドリ:あぁ? んだぁ、てめぇこら。お得意様だか何だか知りませんがねぇ、ひとに面倒なもん背負わせといて何ですかねぇ、その態度は。あんまり調子に乗ってると解しますよぉ!
アイポーツ:チンピラ風情が、脅しのつもりか? お前のところの頭に言いつけるぞ。
カウアドリ:っち。面白くねぇ。おい兄ちゃん、あんたはどうなんです、むかつきませんかねぇ。
マーチ:いや俺ぁ、払って貰えるっていうならぁ別に。ただ口封じに色つけて貰えるってんならぁ、嬉しいけどな。
カウアドリ:っは、そいつは良い。金なんかどうでもいいですけどねぇ、むかつく奴から毟れるだけ毟ってやるってぇのは、すこぶる気分がよろしい!
アイポーツ:薄汚い下郎め。
カウアドリ:汚くて結構。綺麗な振りしてる糞共に比べましたらねぇ。
アイポーツ:これだから、賤民は。
カウアドリ:んだとぉ?
アイポーツ:私ははじめからこんな信用ならん奴らを使うなんて反対だったんだ。
カウアドリ:ああそうかい、馬鹿には何言っても意味ないってことですねはいはい。
マーチ:良いから早く報酬。約束通り秘密は守るし、望み通り早く立ち去るからさぁ。
アイポーツ、懐から金を取り出す。
受け取るカウアドリ。マーチそれを見ている。
カウアドリ:何だよ持ってんじゃありませんか。
アイポーツ:それ持って失せろ。
カウアドリ:へぇい。さて、陰気臭え仕事も済みましたし、ぱぁっと呑んで帰りますかねぇ。
カウアドリ、去る。
アイポーツ:何だ? お前はいらないのか?
マーチ:……いや。
マーチ、金へと手を伸ばすとアイポーツの手を掴む。
アイポーツ:何のつもりだ?
マーチ:まだ持ってるんだろ、あんた。上前はねようとしてる。違うか?
アイポーツ:何を馬鹿な。
マーチ:確かにこの通り頭は良くないが、耳は悪くない。こいつを運んでる時、あんたの懐から金のこすれる音がした。
アイポーツ:聞き間違いだろ。無い物は無い。
マーチ:いいや持ってるねぇ。こういう時、雇い主ってのは金払いが悪いって相場が決まってんだ。ちょっと跳んでみ。
アイポーツ:は?
マーチ:良いから、跳んでみなって。
アイポーツ、跳ねる。金の音。
マーチ:その音は?
アイポーツ:……だったら何だというのだ! お前は黙ってこれを持って消える。それ以外に出来ることなど無い。
マーチ:人間社会ってのは、交換で成り立ってるって知らねぇの?
アイポーツ:知るか!
マーチ:んー、だったら仕方ない。あんた、歌は好きかい?
アイポーツ:は? 何を言ってる。
マーチ:俺さぁ、行きつけの酒場ではな、ちょっとは名の知れた歌手なんだよ。港で働いてる仕事柄かなぁ、よく通る声だって評判なんだぜ。それこそ、しっかり金払いたくなるくらいによ。
アイポーツ:お前、まさか。
マーチ:俺の歌は少ぉし特別でな、大抵のやつぁ酔っ払って気分が良くなると歌い出すもんだが、俺はな、悲しいと歌うんだぜ。もうみんな、ぼろぼろ泣いてよ、やめてくれ、そんな悲しい歌、聞きたくねぇ! ……ってよ? きっとあんたも、いや。船員達も気に入ってくれるだろうぜ。
アイポーツ:分かった! 金は……払う。
アイポーツ、懐から金の入った袋を出す。
マーチ:(受け取りながら)へへ、毎度あり。……あー、ああー、あー。
アイポーツ:おいお前何してる金は渡したろう!
マーチ:いやねぇ、俺ってのは律儀な男でなぁ。相方って訳でもねぇけど、何かの縁だ。あいつの分も歌ってやろうかと思ってなぁ。発声練習を少し。
アイポーツ:っく! これで文句ないだろう。
アイポーツ、もう一つ、金の袋を出す。
マーチ、それを受け取る。
アイポーツ:もうこれで全部だ、さっさと失せろ。
マーチ:ははっ。あんた良い雇い主だ。労働者の声を聞いてくれるなんてよ。
アイポーツ:お前は最悪だ。
マーチ:そう言うなって、確かに受け取ったぜ、じゃあな(去ろうとして立ち止まる)……っと。
アイポーツ:なんだ?
マーチ:ああそうだ。悲しいと歌うって言ったけどよ、やっぱ、嬉しくても歌うんだわ。だからついでに一曲、歌声の方も、聴いてってくれよ!
アイポーツ:何?!
マーチ:一番、マーチ。歌います。ミュージックスタート!
ヴィオラ:あいよ!
合図でヴィオラ、音楽を流す。
マーチ、歌い出す。
アイポーツ:くそ!
アイポーツ、逃げる。
マーチの歌がオープニング曲となる。
ヴィオラが入ってくるとマーチ、ローブを脱いで金の袋を片方投げ渡し、
二人、ハイタッチで手を打ち鳴らす。アウローラを連れ去る。
ヴィオラ:時間よ、急いで。
マーチ:分かってる。
入れ替わりに数人が入ってくる。
しゃがみ込むと辺りに何かを仕掛けるような動き。
作業を終えるとそれらは散り散りに去って行く。
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