第31話 セリアス(1)


 俺の復讐相手の残りはセリアス一人となったが、彼の情報はなかなか入ってこなかった。


 スズリとロータスが二手に分かれてセリアスのことを探してくれているが、残念ながら彼の行方はつかめない。


 イチカやシニアのように豪遊していないのかと思ったが、半年前までのセリアスの情報は入ってくるらしい。


 半年前のセリアスは酒と女とギャンブルといったものに金をつぎ込んでおり、派手な暮らしをしていた。


 あまりにも情報が入ってこないので、ロータスたちに混ざって俺も酒場に行ってセリアスの情報を得ようとした。しかし、どこの店でも半年前からセリアスを見ていないという。


「この街を出た可能性もあるのか……。でも、いきなり移動なんてするか?」


 俺は旅慣れているが、住処を変えると言うのは面倒だ。大荷物を持って家を探すと言う行為は、よっぽどの準備がなければできない。


 それに、人知れず他の街に旅立つというのも納得がいかない。人が引っ越す時には、周囲に知らせるものだ。


 自分で知らせなくとも大荷物を運ぶので、勝手に周囲に知られていくものでもある。


 イチカとシニアにも丁寧(痛めつけながら)に聞いてみたが、二人もセリアスの行方は分からないらしい。ただし、半年前に金の無心をされたとは口をそろえていた。


 嫌な予感がした。


 俺は、セリアスを探す酒場のレベルを落とした。社会の末端の人間が通うような酒場に入って、ロータスと共に人々から話を聞く。


 こんな場所では女のスズリナは目立つので、彼女には相変わらず高級な店でセリアスを探してもらっている。


 邪竜退治の旅をしているときにも訪れたことがあったが、末端の酒場というのはあまり治安が良くない。


 屈強な俺に難癖をつけてくる輩はいないが、ロータスのことを睨んでくる人間はいた。もっとも、いかつい俺の連れだと分かると一目散に退散していくのだが。


「こういう場は始めですが……。なるほど、一般的には入りたくない場所ですね」


 ロータスは、こういう場は苦手らしい。


 こういった店の方が、俺は御高い店よりもリラックスできた。旅の最中は安い飯が食えて、重宝したものである。


「でも、こういうところの飯が美味かったりするんだよ。それに安いから財布にも優しいし、邪竜退治の旅ではよく使った」


 もっとも、清潔面では信用が置けなかったりする。


 几帳面なロータスには、あまり言わない方が良いだろう。今だって、店の隅では黒い物体がわさわさと動いている。あの物体が何であるかは、知らないほうが幸せだ。


「リリーシア様……。こういう店が美味しいとは本当ですか?どう考えても、そうは思えないのですが」


 ロータスは、このような店には馴染めないようだ。


 前々から思っていたが、ロータスは育ちが良いのかもしれない。彼の言動には、その端々が伺える。そうでもなければ、王宮で仕えるなどは出来ないであろうが。


「我慢できないなら、外で待っていて良いぞ。俺は、酒をちょっと食べていくけど」


 酒屋で何も注文せずにいるわけにもいかない。


 適当なつまみを注文して、人の話を聞くために長居をするつもりであった。


「いいえ。このロータスは、ご主人様と共に火の中でも水の中でも挑む所存です!」


 ロータスは、拳を握りしめる。


 意気込みは買うが、ロータスの顔色は真っ青になっている。不潔な店は、やはり無理なタイプらしい。


 仕方がないので、今回は切り上げようと思った。たとえ目立ったとしても、今度はスズリを連れて来た方が良いのかもしれない。


 俺は何も頼まなかった無作法を店員に謝って、少し多めのチップを渡した。


 そのチップを店員は断って「お連れ様がいない時に食べに来てください。うちのトマトのもつ煮は絶品だから」と耳打ちされた。店側にもロータスの状況は、知られていたらしい。


 俺は、店を出た。


 そして、思いも寄らないところでセリアスを見つけたのだ。



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