第11話 ヨルゼとの別れ

「さぁ、これで一件落着だな」


 ユイとの奴隷契約が切れたヨルゼは、清々したという顔をしていた。これで俺達に煩わされることもなく、自分の商売に戻れるからであろう。


 ヨルゼは、まだ数名の奴隷が残っている。俺達に足止めされるほど費用がかさむので、早いところオサラバしたいというのが本音だろう。


「……ちょっとまて」


 俺に呼び止められたヨルゼは、心底嫌そうな顔をした。


「こっちは、予定が押しているんだ。時は金なりでという言葉を知らないのか」


 ヨルゼは、俺が命の恩人だということを忘れかけている。


 だが、ヨルゼが道草を食うごとに奴隷の食費や馬の食費がかかってくるのだ。これ以上は、俺達に関わりたくない気持ちも分かる。


「普通の市民を奴隷に落とすような方法ってあるか?」


 俺の質問に、ヨルゼは何を聞いているのだろうかという顔をした。


 仕方があるまい。


 俺は、奴隷には疎いのだ。今までの人生では必要なかった。それに、奴隷というのはそこそこ高価なものである。


 安い奴隷だっているのだが、そういう奴隷は病気持ちだったりして役に立たないことが多い。以前、妊婦だと知らずに安さだけで奴隷を決めて、まともに働かせる事ができずに損をしたという話も聞いたことがある。


「一番簡単なのは誘拐でもして、悪徳魔法使いに無理矢理にでも奴隷契約を結んでもらうことだな。非合法だし、金もかかるけど一番手っ取り早い」


 なるほど、と俺は頷く。


 ユイは、そのように非合法の手段で奴隷にされたに違いない。世の中には悪い魔法使いもいたものである。


「あとは、家族のために自分を売ったりしている奴を買うとか。借金のカタに売られた人間を買うとか。まぁ、なんにせよ。魔法使いには、ぼったくれる」


 俺は奴隷に詳しくはないが、ヨルゼのおかげでいいことが分った。


 案外簡単に、奴隷は作ることができる。


 無力化したユイならば、セリアスたちにだって簡単に奴隷にできたことであろう。


「ありがとうな。おかげで、今後が楽しくなりそうだ」


 俺の笑顔に身震いしたヨルゼは、急いで馬を走らせる。その後ろ姿には、俺とはもう関わりたくないという想いが見て取れた。


 これでも世界を救った人間なんだけどな、と俺は苦笑いする。ヨルゼが逃げる後ろ姿を見ていると自分が大悪党になった気がしてしょうがなかった。


「さて、村に顔を出したいが……まずは新居に行かないとな」


 ユーナさんとユイがいない村には、はっきり言って未練はない。ならば、王が用意してくれた新居を確認するのが先だった。



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