第3話 森の中での出会い


 ユイを見つけられたのは、本当に偶然だった。


 二年をかけて邪竜を退治した俺は、意気揚々と出身の村まで馬を走らせていた。邪竜を退治した俺は、王から様々な褒美を与えられた。


 父だったら、それらを全て断っていただろう。


 以前に出た邪竜を退治した父は、王からの褒美を全て辞退した。潔い決断に当時は憧れる者も多かったらしい。


 そして、父は一介の冒険家として一生を終えたのである。


 俺は、父ほど聖人になれない。俺は貰えるものは、ありがたく貰えることにした。


 村では、病気のユーナさんと幼いユイが待っているのである。彼らを養うためにも褒美は必要だった。


 それに、寂しい思いをさせた分だけ楽をさせてやりたいという気持ちがあった。


 幸いにして、この二年の間にユーナさんの病状が悪化したという報告は聞かなかった。


 ユーナさんに何かがあれば、セリアスが城まで手紙を届けてくれる。そういう手はずになっていたのだ。


 俺が旅をしている間では報告を受け取ることも出来なかったが、療養生活中には城にいた。しかし、ユーナさんの身に何かがあったと言う報告はまったくなかったのだ。


 ユーナさんは、俺が帰ってくるまで頑張ってくれたのだろう。だから、早く帰って恩返しをしなければと思っていた。


 俺の実母は、もういない。


 父もいない。


 いなくなった二人の分も含めて、俺はユーナさんに恩返しがしたかったのである。


「王様から賜った報奨金だってあるんだ。もしかしたら、これで良い医者を見つけてユーナさんを治せるかもしれない」


 俺が村を出発する時にも、家族を村に残すからという理由で王は何十枚もの金貨をくれた。


 平民にとっては一財産と言って言い金額であり、そのお金でユーナさんに良い医者を見つけて欲しかったというのが本音だ。


 だが、そのお金は「ユイとリリーシアが二人で生きていけるように」と言って、ユーナさんが貯金してしまっていたのである。


 ユーナさんには、金を自分のために使って欲しかった。しかし、幼いユイのためにも養育費が必要になってくるのは自明の理だ。無駄遣いは出来ない。


 ユイには、ユーナさんゆずりの魔法の才能がある。いつかは、魔法使い専門の学校にも行かせたい。俺が無事に帰ってこられないかもと考えれば、金なんていくらあっても足りなかった。


 せっかく才能があるのだ。


 ユイには、良い学校に行ってほしい。


 魔法使い専門の学校は、目が飛び出るほどに学費が高いのだ。けれども、そこで学ぶことが出来れば魔法使いのエリートとして上り詰めることだって可能だ。王宮で働けることだって出来るかもしれない。


 ユイは、賢い子だ。


 だから、俺とユーナさんはユイの将来に期待していたのである。


 ユイには幸せになってほしい。


 それが、俺とユーナさんとの共通の願いでもある。


「ユイ。ユーナさんに何かがあったら、セリアスたちを頼るんだぞ。ユーナさんが亡くなった時の財産管理は、しっかり者のシニアに頼んである。もしも、村の子供に虐められたらイチカに相談するんだ。絶対に力になってくれるから」


 旅立つ前に、俺はユイに「もしも」のときを告げていた。


 幼い弟に、母親の「もしも」の時を教えるのは辛かった。弟も涙ぐんではいたが、俺を見送るために無理やり笑顔を浮かべる。


「分かりました、兄上。僕は、母上と一緒に兄上のことを待っています」


 健気な弟の言葉に、俺は胸を撃たれた。


 ユイが平和に暮らせるようにするためにも、絶対に邪竜を倒そう。そして、なんの憂いもなくユイが成長できるような世界を作ろう。そのように、俺は決心を固めたのである。


 無事に生還した俺がもらったのは、金貨だけではない。


 領地とナイト。つまりは、騎士の称号だ。


 ナイトは一代限りの貴族であり、名誉ある称号でもあった。


 これで、ユーナさんやユイに楽をさせることができる。


 二年も寂しい思いをさせてしまったのだ。ユイは、特に甘やかしてやろうと思っていた。


 その時であった。


「たっ、助けてくれ!!」



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