第14話(15:00)

 とりあえず、凊冬すずふゆさんがやり残したあたりの片付けを行う。ウェットティッシュやただのティッシュなど散乱したゴミをゴミ袋にぽいっと放り込んで、そろそろ上映時間かな、と入り口の方を窺いに行く。


「何をやって……ッ」


 思わずその場で座り込んだ。


 本当に、何をやっているのか。


「馬鹿なの?」


 あいつボクの話聞いてたんじゃなかったのかよ。


「……」

「……」


 廊下のざわめきに邪魔されて、声は大きく聞こえてこない。多分だけど、滅茶苦茶なことを言っているまつりにみんなが困惑しているんだろうな、ということはわかる。

 助けに行こうかな……。


――ガラッ。

 ドアが突然開いて、誰かが顔を出す。


「お兄ちゃん!?」


 今日は来ないって言っていたのに。


つばさちゃん」

「なんで来たの」

「祭くんに呼ばれたんだ。あと、令華れいかにも行けって」

 でも、来て正解だったねえ。

 

 そんなことを言って、ボクの兄――小野寺おのでらきぬがさはボクの手を引いた。


「祭くん」


 ドアを出て、すぐのところに、禊禧けいき祭。


「あ、小野寺さん」


 困惑した様子のクラスメイトがボクに助けを求める目を向けた。


「ごめん、友達が」


 祭のことを友達というのには抵抗があるけれど、この際仕方がない。

 というか、祭は何を怒っているんだろう。あれもこれもすべて、ボクの責任だから、祭が怒る必要なんてないのに。


「だから、俺は翼を連れ出す許可が欲しいんだって」

「でも、そうすると教室を清掃する人が」

「二時間交代と聞いたが」

「……小野寺さん、さっきいなかったので」

「でも、午前中やっていたのは翼じゃないのか」

 

 どうやらずっとこんな風に押し問答をしていたみたい。二時間交代とか、言ってないのになんか知ってるし。


 その時、パタパタと上履きで走る足音が聞こえた。


「あ、小野寺さん!」

「凊冬さん? 遊びに行ったんじゃ」

「誰も遊んでくれなくってさー。わたし、掃除代わるね」


 すーい、とボクの前を通過して上映会場の方に行く。


「あら?」


 凊冬さんは祭に気づいて足を止めた。


「こんにちは」

「……」


 祭が黙って頭を下げる。


「凊冬さん」

「え?」

「掃除代わってくれて、ありがとう」

「どういたしまして」


 凊冬さんは少し不思議そうな顔をしながら、教室に入っていった。


「祭くん」


 お兄ちゃんが祭を呼んだ。ちなみに右手はボクの左手首をつかんだまま。


「俺の妹のために怒ってくれてありがとう。それじゃあ行こうか」


 祭はまだ不服そうだったけれど、形だけぺこりと頭を下げて、受付を離れた。受付の子があからさまにほっとしたのがわかる。


「ご迷惑をおかけしました」


 お兄ちゃんが受付の子に頭を下げて(大人らしく)、祭の手を左手でつかむ。


「令華が席を取ってくれているんだ」

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