第13話(14:27)

 教室に着くと、昼間よりも順番待ちの椅子に座っている人の数は少なくなっていた。受付の娘が目を見開いている。


「仕事。しに戻ってきました」


 もっといろいろ言うべきことはあったんだけれど、とてもそれを言えるような状態じゃなくって、あちこち取り繕えていないのはわかっていながら、何も言えないままボクは、今休憩時間中であろう教室に入った。——つもりだった。


「小野寺さん!」


 あー、捕まった。


「何?」


 少し愛想がなかったな、と自分でも思う。

「さっき、どうしたの」

「そうそう! あの人だレ?」


 ふと、何でもないはずの声が裏返って聞こえて、我ながら参っているなと思う。


「……」


 ボクは黙っているのに、どんどん質問が重ねられていく。もう全然聞こえない。


「ボクは、掃除をしに来ただけだから」


 どうにか——そんなにうまくなかったけれど——人ごみを抜けて、教室の中へ入る。

 そこで、あれ? と思う。

 ぐちゃぐちゃで整頓がなされていなくて、ゴミが散らばっているのを想像していたのだけれど。

 思ったよりも……いや、それよりも全然奇麗だ。

 ボクは、目をぱちりとつぶって。無理やりに自分に切り替えるように言い聞かせて、彼女に声をかける。


「……凊冬すずふゆさん」


 ほうきを持って、小さな塵を塵取りに追い込もうとトライしている彼女。確かボクと同じ班だった彼女の脳天に声をかける。

 ボクの声が小さすぎたのか、聞こえなかったようなので、再び名前を呼び……はしないで、


「抜けちゃって迷惑をかけたでしょう。ごめんね」


 ボクは謝った。


「え」

「ボクの用事は済んだから」


 嘘だろ、とでも言いたげに怪訝な顔をされる。女子だから話しかけやすいつもりだったのと、多分この人たちの中ならリーダー的存在なんだろうな、と思ったから話しかけたんだけれど、もしかしたら失敗だったかもしれない。


「遊びに行ってきてくれて、大丈夫だよ」

「大丈夫?」


 語尾を聞きとがめられたのだろうか、と思って弁明する。


「大丈夫だよ。午前中はずっとやっていたんだから」


 そう言ってから、そこまで頑張っていないな、と思ってしまった。ボクは自分で思っているほど、聖人じゃないなって、思う。


「そう」


 凊冬さんは納得したみたいだった。彼女が教室を出て行くと——ボクの顔を眺めつつ振り返りつつだったけど——ボクは彼女の渡してくれたほうきを眺めた。


「あー」


 ボクは本格的に、やられちゃったみたいだ。


「掃除、面倒かな」


 そんなことを言っていてもしようがないので、端から端まで奇麗にすることにする。

 今度は誰も邪魔しないでほしいな。——フラグじゃないよ?

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