第12話(再び、愚にもつかない自分語りを)
教室に戻るのも何だか格好がつかないし、その辺にいると祭に勘づかれそうだったので、ボクは図書室にやってきていた。
文化祭の期間中は、盗難防止だとか何とかで、外部の人は入れないようになっているし、当然だが中にいる人も非常に少ない。人目が天敵な今のボクにとって、ぴったりの隠れ場所だった。
すぐに追ってこなかったということは、祭は多分ボクが逃げるとわかっていたのだろうな、と思う。放っておいたら、またろくでもないことをしかねないというのもわかっているつもりだ。
でも、それ以上に身体が動かなかった。
ほんとうに、
今日も、勝手にボクをこうやって傷つけて、どうせ救けに来るんだろう。それでもって、ボクのことを本当に思っているような顔をしやがるんだろう。
全部わかっている。
そこまでわかっているなら、逃げなくても済んだはずなのになあ。
やっぱり、ほんとうのことを言われるとつらいよ。
それじゃあ、種明かしをしようか。ボクは、種の分からないマジックは嫌いなんだ。
元々、祭がほぼほぼネタばらしをしてしまったようなものだけど、幕を下ろすのはやっぱり自分の手が良いから。
少し長い話になるけれど、聞いてくれると嬉しいな。
ボクは、周りの人間に比べれば有能な奴だ、そう思ってこの十四年間を生きてきたんだ。
傲慢だな、と今なら思うよ。でも、周りと比べたら圧倒的にボクの方が出来が良かったんだから仕方ないじゃないか。祭みたいな規格外な奴とは違うけれど、これでもまだ総合順位は一桁から落ちたことがない。
それでもさ、段々成績が落ちてきているんだ。周りの友達には六位なんて十分いい結果だと言われるけれど、そんなの相対評価でしかない。絶対評価で言えば、平均点とボクの点数の差が狭まってきているのは間違いないし、数学なんかこの前は平均点すれすれまで落ち込んだ。
自分で言うのはあれだけど、ボクはかなりの努力家なんだ。
少なくとも、前夜に勉強を始めたことを誇るような奴とは、格が違う。
それでも、センスには勝てないんだよ。
どれだけ努力を重ねたって、何をしたって、一夜漬けで詰め込んできた知識に勝てっこないんだ。そんなのおかしいだろ? ボクはこんなに頑張ってるんだよ?
しかもその勝者がボクの友達だっていうのが可笑しいよね。滑稽でしょ?
どれだけ国語の点数が勝っていたって、どれだけ記述の点数に差があったって、勝ちは勝ち、負けは負けなんだ。
素直に誇ればいいだろう。
ボクのことを慰めたりしないでくれよ。それが気持ち悪いって言ってんだ。
もしもボクがあの時点で壊れていたなら、言っただろうな。
[頑張りがわかんないくせにどうとでも言えたもんだよなあ、どうせ、頑張れば、本気を出せば、っていう言葉に縋って生きてるんだろ?
ああ良いだろうさ、頑張らなくても、本気を出さなくっても、結果が出てんだからな!
でもお前なんかにわかんないだろ? 頑張って頑張って、毎日帰った後に復習をして予習をして、出来ることはやっているつもりで、他人の荷物まで背負えるくらいに努力をして、追い越される気持ちなんて!
命を削るくらい頑張ったことが、報われないのがどれだけつらいか、わからないだろう?]
って、さ。
努力するって、そういうことだよ。
努力に命を吹き込んで、努力することで自分を削って、それで結果が出なくても、削った自分の欠片を抱きしめて、夢を望んで、希望を夢想して生きるしかないって言うのが、努力するってことなんだよ。
ボクは、努力をするボクが、努力しないことを自慢しないボクが大好きだ。
だから、そんなボクが否定されることが嫌いだ。
それがわからなかったから、ボクは痛かった。
そうだ。
ボクはボクの努力が報われないのが嫌だったんだ。
ボクの努力を上回る才能を目にすることが辛かったんだ。
だから、逃げている。逃げ続けている。
努力を続けることから逃げている。
この前の結果が返ってきてから、勉強をしていない。
努力が報われるって信じれていたことが嘘みたいに、自分が恐い。
また、失敗して、願う未来が遠ざかるのが恐い。
そうやって甘えていたんだ。
ねえ、わかったかなあ。
ボクよりはるかに馬鹿であろうお前にわかったかなあ?
努力しないことは美徳じゃないし、それを誇ることは英雄じゃないんだよね。
努力は報われるって言ってくれる祭は彼らにとって敵だろうけれど、甘えて逃げているボクにとって味方なわけでもないんだよね。ただ、それだけのことだよ。
祭には嫌われたかな。それももう、どうでもいいような気がするよ。
ボクは頑張っていたし、頑張らなかった他の奴らより偉かったんだって、ただ認めてほしかったってことがわからないような奴には、興味なんてもうないから、さ。
それじゃ、結論が出たところで教室に戻ろうか。途中で本を読んでいたせいで、二時間くらい経ってしまったけれど。
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