第10話(12:13)

「わかっていると思うけど。さっき読んでいたのは、つばさが書いた小説だ」

「知ってる」


 だから読んで欲しくなかったのだ。


「ああいうの書くのが好きとは知らなかった」

「……」

「黙るなよ」


 俺がいじめているみたいになるじゃないか、と言う。ボクとしては、いじめというより、わざわざ向かいに座り直してそういう事を言うものだから、三者面談でもしている気分になるけれど。


「俺、小説ってほとんど読まないんだ」

「あっそ」

「小説って、あんなに著者の考えが色濃く出るものなんだな」

「……だから?」

「いや、ただの感想」


 本当に不気味。


「それで? 大事な話って何?」


 ちょうどお昼時。ご飯を食べている家族連れも多い時間。何にせよ、そろそろシフト交代の時間。話を聞いたら戻ろうか。


「俺、翼のことが好きだ」


「付き合ってほしいとか、そういう即物的な願いはない。

「でも、反対のことをしなきゃいけない。

「俺は今から、翼のことを傷つける。

「ごめん」


 何を言っているのかわからなかった。

 まつりのことは嫌いじゃない。

 好きって胸を張って言えはしない。

 祭の言っているそれが恋愛感情だとしても、ボクのこの想いは、恋じゃないと思う。

 だから、何も君には言ってやれない。


「自分勝手なこと言わないでよ」

「ごめん」


 目を閉じた。


「聞いてほしい」

「君にだけは、傷つけられたくなかったなあ」

「ごめん」

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