第9話(12:05)
「どんな関係って、別に? 普通に幼馴染だよ?」
ボクがそう言うと、
「
「どうして?」
「多分、祭くんが思っているのと同じことだと思う」
「祭、どういうこと?」
祭の方を見上げると、彼はこっちを向いていなかった。
「俺は正義の味方じゃなくって悪の敵ってことか」
「その真意はわからないけれど、おそらく」
ボクにはわからなかったけれど、どうやら祭と令華たちの間では何か共通の認識ができたみたいだった。
「それと、祭くん」
「?」
「はい」
「貴男なら二十分もかからないと思うわ。場合によっては五分で内容を理解できる」
「これは?」
祭がボクに冊子の表紙を見せてくれる。
「これっ…!」
急いで奪おうと手を伸ばすも、後ろに回された。椅子に座っているせいで手が届かない。
「ありがとう、榛」
「あら。わたしにも感謝なさいな」
「あ。令華もありがとう」
「翼ちゃん、翳さんによろしく」
「榛も。お兄ちゃん、喜んでたと思う」
「それは重畳ね。榛、行くわよ」
令華が無表情にそう言って、榛がそれに追随する。ボクは、祭の椅子の後ろに変に手を伸ばした体勢のまま、見送ることしかできなかった。
「ねえそれっ…」
「今から読む。先に食べてていい」
「読むなってば」
「おっと」
上に上げられると取りようがない。
「ねーえ!」
「あんまり暴れると音読する」
「……」
どうせ体格でも能力でも勝てないことはわかっているのに、そういう切り札を出してくるのはずるい。
まず全部のページを2秒くらいずつかけてめくって、30秒。それから、はじめから三分の二ぐらいの位置を開いて読み出して、30秒。ページから目を上げて、何かを考える体勢をとって、2分。
「翼」
「何」
「学級委員とかやってる?」
「今季はやってないけど、前季は」
「1個前のテストの一番科目数の多いやつの総合順位」
「九教科ってこと?」
「多分」
「6」
それからさらに1分。
「そういうことかよ」
天井を仰いで一言。
「何? ボクもうお昼終わっちゃうんだけど」
「……」
食べたら? と割り箸を差し出すと、今までに見たことがないくらい優しい顔をされた。
「翼」
「何? 気持ち悪い」
「大事な話がある」
「より気持ち悪い」
「とりあえず食べる」
祭は割り箸をぞっとするほど奇麗に割って、焼きそばのパックを開ける。
「祭」
「?」
「ホットドッグ少しもらっていい?」
「良いよ」
マスタードの載っているところを避けてご相伴に預かる。
「ひっでえ。俺マスタードばっかやん」
「ボクが辛いもの嫌いなことぐらい知ってるでしょ」
「知ってるけどさ」
祭が顔をしかめながら長細い物体を口に運ぶ。彼の両手がふさがっているので、そのうちに奪還しようと冊子に手を伸ばす。
「何で見えてるのよ」
「ばればれ」
器用に肘を使って遠ざけられた。しょうがないので食べているところでも眺めることにする。
「これ食べ終わったら話すから」
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