第8話(12:03)

令華れいか?」


 ボクが声をかけると、ブロンドの髪が振り向かないままで喋った。


「久しぶりね、つばさ


 向かい側に座る男子が、あきれ顔で令華を窘める。


「流石に振り向くぐらいしたらどうだ。わかっていたとはいえ」

「俺たちが来るのがわかっていたって?」

「正確には、この学校で声をかけてくるのが翼とまつりに限定される、とわかっていただけだけど」

「何しに来たの?」


 はるが——令華の付き添いの男子が立って令華の隣に座りなおす。


「どうぞ」


 席を譲ってくれるらしい。


「あら。狭くなるじゃない」

「元々ここは四人掛けだろう」

「そうだけど」

「二人はお昼か?」


 ブロンドの髪の美少女は新樹あらき令華、溝色の髪と目をした少年は角陽かどび榛という。

 数年前に知り合った、異国の住民だ。


「最後に会って二年くらいかしら? 今日はきぬがさに会いに来たの」

「何でここに?」

「会いに行ったら、翼が今日ここでお祭りをやっていると聞いたの」

「お兄ちゃんは?」

「来ていないはずよ。来るなと言われたのならやめた方が良いと言ったから」

「翳さんが聞くかはわからない」

「翼に嫌われるわ、と釘を刺したのよ? 聞くでしょう」

「そうだといいけど」

「ところで、翼ちゃんの出し物は何?」


 榛はいちいち人のことを君、さん、ちゃん付で呼ぶからこそばゆい。令華は呼び捨てだけれど。


「劇。ボクは出てないし、今は見ての通り店番でも何でもないけど」

「祭君は何もしていないのか?」

「俺はこの学校じゃないから」

「あら? 同じだと思っていたわ。祭のことだから翼と同じ学校を選ぶのかと」

「俺はまだ親に逆らえる歳じゃないから」

「親への反抗、そろそろ始まる頃だと思うわよ。するつもりなのかわからないけど」


 令華は紙パックに刺さったストローをすする。握りつぶしてから榛に渡し、捨ててこいと言った。


「二人の関係もかなり歪だよ」

「あら、仕返し? それとも嫌がらせのつもりかしら」

「ちょっとした意趣返し」

「ねぇ榛、わたしたちの関係ってなんなのかしら?」


 戻ってきた榛が首を傾げる。


「友達…か?」

「だそうよ。そっちこそどうなの?」

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