第6話(11:07)

 驚いたことに、うちのクラスの劇には小規模な行列ができていた。大半がクラスメイトの保護者のようだったが。


「人気じゃないか」


 まつりも同じことを思ったらしい。


「ほぼ保護者じゃん」

「幾らするんだ?」

「二十円」

「フリーマーケットでもしてる気分になるな」


 財布の中から五十円玉を出してボクに見せつける。


「新しいね」

「磨いただけ」


 奇麗だから新しいのかと思った。


「タバスコで奇麗になる」

「自由研究のテーマに良さそうだね」

「小並感」


 軽い気持ちで言っただけなのに。


「文化祭って、いいね」


 もちろん人混みは好きじゃないけど、このかすかに聞こえる呼び込みの声とか、次の行く先を話してる人達の笑顔とか、そういう雰囲気は大好きだ。


つばさもそういう優しいこと言うんだな」

「馬鹿にしないでよ。ボクだって年がら年中突っ張ってたら疲れちゃう」


 第一突っ張っていられるのだって祭の前くらいだし。


「何の劇をしてるんだっけ?」

「ロミオとジュリエット」

「王道だな」

「アレンジはしてるらしいよ」

「内容、知らないのか?」

「劇をやる班とはつながってないから」

「じゃあ楽しみだな」


 本当に楽しみそうに、わくわくと教室のドアの方を見やる祭。ボクは、今から受付のところに行って、さっき見送ってくれた女の子と挨拶をする、と考えただけで寒気がしているというのに。


「えっと……続柄は」

「幼馴染です」


 受付の女の子に好奇心でいっぱいの目を向けられながら、ドアを開けてもらって中に入る。遮光カーテンを引いて、蛍光灯を付けた室内には、大量の椅子が並べられていた。


「どこがいい?」


 どこでもいいよ、とありきたりな言葉を返すと、祭は二列目の中心辺りに座って、当たり前のように隣に座ることを促した。


「ちょうどいい席だろ」

「多分祭の後ろの人が全く見えないことをボクは予想するけどね」

「これ以上後ろだと翼が見えないだろ」

「低身長でごめんなさいね」

「可愛くていいけどな」

「何なら三十センチ交換する?」


 しないしない、と言って祭が笑う。本当にくれたら見下せるのに。

 座席は半分くらい埋まっていた。次の上映時間まで後十分ぐらいあるから、きっといっぱいになって劇が始まるんだろう。


[あと十分で開演です。お席に座ってお待ちください]


 部隊の左端、活動写真の弁士みたいな女の子がアナウンスをした。小型のマイク

で、当たりに音が響く。


「正確にはじっぷんて読むらしいな」


 独り言みたいに、祭が呟く。わざわざここで言うなよ、と思った。


「たくさんの人が読めばもう正しいみたいなもんでしょ」

「それもそうだな」

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